基本読書

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白痴/ドストエフスキー 第一編

白痴 (上巻) (新潮文庫)

白痴 (上巻) (新潮文庫)

 とりあえず第一編のみ。長いのでねー。表紙が、丸い円の中にドストエフスキーの顔が半分だけ入っていて非常に笑える。何を意図してこんな構成にしたのか理解不能。作品自体は非常にまじめで、カラマーゾフの時のように爆笑することもなく普通に読み終えた。過度の期待はしないで読み始めたのだが最初の200ページがこれ程完璧に構築されている小説を読んだ事が無い。本書のスタートは鉄道から始まる。三ページにわたる状況描写、人物描写が終わった後に会話が入ってくるタイミングが絶妙すぎて感動した。うまく説明できないのだが、感覚的には潜水をしていてちょうどいいここだ! というタイミングで息継ぎをしたといった感じ。それからこのあとも、ここらあたりで心情描写が欲しいなと思うとまさにそのタイミングで描写が入る。少なくとも前半200ページは自分の中では、かつてない最高の小説である。そのあとも面白くないはずがないのだが、突然パーティー会場でみんなが自分の罪を告白しあうというわけのわからない状況になって、関係があるのかないのかわからないような脇キャラが訥々と自分の罪を告白するのは正直意味がわからない。とりあえず第一編に限って盛り上がりどころを言うならば、46ページあたりの公爵が死刑を前にした囚人がなにを思うかと美人三姉妹に語る場面。それから最後の、誰もが予想しなかったナスターシャの暴虐無人ぶりだろうか。ついでにいえば、公爵は物凄いタヌキである。とても純粋な人間であるとは思えない。自分が実は大金を手に入れる予定があることを知っておきながらナスターシャには黙っていて、一番最後に実は僕にはお金もたんまりあるんですと切り札を用意しているし、過去の話で病身のマリイが死んだ時の独白、「私は、もっと長生きするだろうと思ったんですがね」まるで実験動物が思いのほか長生きしなかったのを悔やむかのようなこのセリフ!なんて恐ろしい男だムイシュキン・・・。ただ公爵が純粋なのは言うまでもない事実でもあるようだ。いや、ひょっとしたら純粋というのも、金を持っているという自信からかもしれないけれど。死刑あるなしの話はもっと考えなければいけない問題だろう。答えがあってるとか間違っているとかではなく、考えることが重要なのだ。

 ナスターシャが公爵に対してあなたとは結婚できないわーと嘆いていた場面で二滴の涙が光っていたという場面がとても印象的だ。単純にくやしかったとか、本当は〜〜とかシンプルに説明できる理由で涙が出たわけではなく、もろもろのすべての感情に涙で説明を付けたのかのような重みがある。フロイトが解釈したような二律背反した感情。公爵に対してあなたとは結婚できないと言い切って見せた自分のプライドの高さに誇りを持っていることが自覚できた喜びと、初めて出会えた人間との別れを惜しむかのようなそんな悲しみの感情が見えるとでも書くとわかっているように感じられる。二律背反の感情というと、126ページにも自然を目の前にした時の重苦しい不安な気持ちと、気分の良さの二律背反を書いている。感情のアンビバレンツ。