基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

エミリーの記憶/谷甲州

エミリーの記憶 (ハヤカワ文庫JA)

エミリーの記憶 (ハヤカワ文庫JA)

 谷甲州の短編集。色んな谷甲州が味わえるいい短編集であるのだがパンチ力が足りない。しかし気を張らずにだらだらと読んで楽しめるので大変よろしい。短編が14つ、入っていて最初の三つは戦争物、これは谷甲州とすぐわかる色の濃さで読んでいて楽しい。それ以外で一番記憶に残ったのは表題作でもある「エミリーの記憶」で、これが個人的にはベストだった。全体的にどれも短くて文章も読みやすいのだが、内容がほとんど無い短編が多い。「一〇年の負債」とか、ほんの二〇ページ足らずの短編だが内容を要約したら2chの有名なコピペである、今のお前は十年後にやり直したいと思ったお前なんだぜ?(あやふや)というだけである。「過去を殺した男」は時系列がいりみだれる類の話かと思ったが違った。これもなんかもっと面白くなったような気がする。面白かったけど。ああそれから「ぼくの街」も良かった。精神病を直すためにネットゲームみたいなもので遊んでいるのだが、その設定が飛浩隆のグラン・ヴァカンスと瓜二つでこれももっと掘り下げたら傑作長編になりそうだなーと思いながら読んでいた。それから「エミリーの記憶」か。これ別に途中の濡れ場とか、最後のオチとか弱いなあーと感じていたのだが、それでもやっぱり最高だなぁと思うのはこのシュチュエーションのおかげだろうか。。ゆきずりの謎だらけの女の子とほんのちょっとの間たのしい思いをして、本気で恋をしてこれからもっと仲良くなれるかもしれないという期待に胸を膨らませて朝を迎えたらそこには彼女はもういなくてそこにはおき手紙が──。って。流れだけ言ったら完全におもいでエマノンなんだけど、まったく一緒でもやっぱり面白い。
おもいでエマノンとエミリーの記憶を比較してみるか。まず女の子が持っている謎から。おもいでエマノンエマノンは人類が生まれてからすべての時間を覚えている。それによってわずかな時間での彼との対話でも、重要な価値を持つことになる。何億年も生きた人間からすれば、10年だろうが100分だろうがそれはどちらも刹那だから。エミリーの記憶のエミリーは謎だらけとは言い難い。そんなに他の人たちと違いがあるわけじゃないが、まあ家出少女的な秘密がある。ただ世界設定で、薬を飲むことによってセックスで深くジョインすることができる→記憶に残る。こうしてみると重要なのは「短い間で」「記憶にこびりつかせる」っていうのが行きずり女の子朝いねーパターンでは重要なのだろう。そして両者とも最後は男の視点で、なんとも物悲しく終わる。エマノンは納得してしまうがエミリーの方はうへへあの子の記憶持ってるから死ぬまで追いかけまわしてやるぜうへへとなる。こう書くと変態にしか読めないがまあ実際変態・・・。