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拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1)/ジーン・ウルフ

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

 汝の見し一千の齢は
 過ぎ去りし一夕の如し、
 日の出前の夜の最後の
 時間の如く短し

 エピグラフからすでに引き込まれた。最初ジーン・ウルフという名前が、あまりにもかっこつけすぎているような気がしてペンネームだとは気がつかなかった。それからイラスト…。

 これは素晴らしいそっくりさん。正面から見てるとよく似ているなあ。兄弟かなあ。ってそんなことあるかい! しかしキャラのかき分けが出来ないのは小畑健の唯一の欠点だなあ。バクマンも結構キャラの見た目かぶってるし…。まあそんなことはどうでもいい。マントをきているのが好印象。そうだよ! 時代はマント萌えなんだよ! 作中でも結構マントについて触れていてうれしい限りであった。簡易テント、という表現があったがまさにその通りである。くるっと全身をおおって座りこめばかわいいテルテル坊主に! 最近のファンタジーに足りないのは絶対にマント成分だよ。このイラストのマントは特殊な形である。真中に太陽のイメージか何か知らないがへんなものがくっついている。こんな描写本編中にあったかなあ? 詳細不明である。うん、まあマントの話はこれぐらいにして。

 最初は確かにいろんな人が言っているように、さっぱりわけがわからなくて世界観に入り込むのは苦労する。そしてこれもまた多くの人が書いていることであるが、数十ページ読み始めた所からようやくわかりやすくなっていく。それは多分セクラが出てきたあたりからであって、セクラとの一連の出来事が終わった後にセヴェリアンの人間的な部分が見えてくる。さらに町に行ってアギア、ドルカスなど、多くの人間と関わるたびにセヴェリアンという人格が形作られていくようでどんどん面白くなっていく。それにしてもドルカスって名前からだと最初男しか連想できなくて少々難儀した。ギザギザ、という単語を読んだだけでギザギザしている感が頭の中に浮かび上がってくるのと同様、ドルカスも何らかの作用で男っぽさを連想させるのだろう。ていうかどっかで聞いたことあるんだよなあ。ドルカス。ファイアーエンブレムだったかな? それから、文章と物語の安定感が素晴らしい。この謎だらけの世界を、少しずつまとめていくことができるだろうというこの圧倒的期待。よく風呂敷広げるだけ広げてたたみきれないんじゃないかな・・・と心配になることがあるのだが、その心配が何故か湧いてこない。

 アメリカの作家という解説を読んで驚いた。大抵文章からどこの国の作家かわかるものなのだが、今回はまったくわからなかった。たぶんイギリスかな? とあたりをつけていたが見事に外れた。 アメリカのファンタジーのイメージが自分の中で完全に固まってしまっていたからかもしれない。ドワーフやエルフが出てくるといったように。しかし多分それだけではないだろう。ジーン・ウルフいわく原本は存在していない言語によって書かれているという。そのおかげかどうか知らないが、独特の雰囲気を持っている。また魅力として、数多くの含蓄深い言葉だ。ハッとさせられる言葉が多くてそれだけで楽しめた。名言集を作りたいぐらいである。こんなのとか

 われわれは記号を発明すると信じている。しかし、真実は、記号がわれわれを発明するのである。われわれは、それらの定義を下す固い刃によって形成された創造物なのである。

 「贈り物をいただくような立場ではありません」
 「それはそうだが。覚えておきなさい、セヴェリアン、贈り物を貰って当然だという場合には、それは贈り物ではなくて支払なのだ。真の贈り物といえる唯一のものは、今おまえが受け取るようなもののことだ」

 この名言は今度から主婦同士のやりとりのあの面倒くさいいやいや本当に気を使わないでくださいいえいえいいんですよほんとにいえいえいえいえというやりとりの時に使えそうだ! ってそんな場面が自分に来るとは思えないぞ! それにしてもこれは眼から鱗だった。

 こっからは場面別に感想。凄いなあーと思ったのは剣の描写である。師匠からたくされた剣が、物凄い剣であることは疑いようもない事実なのであるがあえてその凄さをずらずらと並べ立てないことによって、その存在がこの物語の中でいっそう特別性を増している。素晴らしい美女であるという設定のジョレンタの時はズラズラズラズラとどれだけ美女なのか、と説明し続けるのと対比してもその特別さがよくわかる。たぶんこれがいつか奪われたとしたら、読んでる自分も絶望するだろう。決闘に負けて取られたか!? ってなった時心底やばいやばい! とびびってたからなあ。自分の中では今のところ価値がドルカスと同じぐらい。それにしてもドルカスはかわいい・・・。主人公にべったりの女、しかも記憶喪失というなんかあざといようなキャラクターなのだがううむ・・・。きっとこのあと連れ去られたり人質にされたりするんだろーなー。かわいそうに。さいてーだジーン・ウルフ! いやわからんが。アギアも良かったなあー。でももうちょっと狂って欲しかった。アヴァーンの設定が出てきてからは、アヴァーンの戦いがどうなるのかが読みたくて一気に最後まで読んでしまった。というか凄く想像しにくいぞ・・・アヴァーンの戦いって。お互いに刃になる葉っぱがついている木をもって、葉っぱ投げ合って戦うっていったいどこからそんな意味不明な発想が出てくるんだ。なんかすごくシュールな気がするんだが。凄く意味不明だ。第二巻に続く。