基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

『佐藤秀峰 on Web』にて暴露される出版業界の問題点とこれから

口約束が基本で、簡単に約束が反故にされる。

『佐藤秀峰 on Web』にて漫画貧乏という話が語られている。一般的に漫画家といえば、原稿料をもらってさらには印税をもらい金持ち一直線というイメージが強いだろう。一度本を出したら何もしなくても本が売れて金が入ってくるというイメージに騙されている人が多いということである。作者の佐藤秀峰が「海猿」を連載し始めた時の原稿料が一枚一万円。週刊連載で一話20ページ、単純計算で80ページつまり80万円が原稿料になる。その中からアシスタント代や税金、自分の生活費などを出すことになると毎月20万円の赤字になるという。もちろんその分は単行本化された時の印税でまかなえ、というのが出版社側の言い分らしいのだが、絶対に単行本が出るという保証がない。小説家森博嗣もたびたび不満をもらしていた事だが出版業界ではほとんどの取り決めが口約束で行われており、簡単に反故にされるそうなのである。印税をあてにして赤字を出し続けて漫画を書いても単行本が出るとは限らない。そんなつらい世界なのである。

古い慣習にとらわれている。

佐藤秀峰海猿の連載が半年を超えた時に、原稿料の引き上げを求めたというが、一喝されたという。また印税は通常単行本一冊につき10パーセントが相場だというが、その引き上げを求めた時も前例がないからという理由で断られたとか。ちょっと前のサンデーに掲載された五〇周年企画のサンデー創刊物語では余所で連載している分の原稿料もうちで払うからサンデーで連載してくれ! と頼み込んだ逸話があったが、それぐらいの柔軟さを何故印税に適用できないのかが謎である。原稿料は作者の給料という形であり、単行本は編集部の仕事であり作者とは切り離されて考えられているのかもしれない。人気のある作家や、これからも継続して書き続けられそうな、安定した人材を印税を他者より引き上げることによって自社に引き込もうとは考えないのだろうか? 余所では印税10パーセントだけど、うちなら12パーセントだすよと勧誘すれば気持ちが全く動かないはずがないと思うのだが前例がないからという理由でやらないのだろうか。不思議な話である。

そもそも出版界がヤバい

ネット界隈でも漫画の編集長が集まるとヤバい自慢が始まるなどと発言したコミックビーム編集長の言動が話題になっている。ただでさえ少ない新人の原稿料は今は更に1000円ほど下がっているというし、漫画家にも重大な問題となって表れている。佐藤秀峰が言うには、ある週刊漫画雑誌は出すたびに2000万円以上の赤字を出していて、それは単純計算で10億円の赤字になる。その分を単行本による利益で埋めており完全にビジネスモデルが崩壊している。佐藤秀峰がWebにて何か色々やろうとしているのも、この出版界のヤバさゆえであるとしている。そしてその時は今も刻一刻と近づいているのだろう。

佐藤秀峰は『佐藤秀峰 on Web』で何をやろうとしているのか

あまりにも理不尽な口約束、印税原稿料その他にあきれかえり出版社を作ろうと思い立ったそうである。

描いた漫画が、単行本という形で読者の皆さんの手に届くまでには、大体、3つの業者さんが入ります。1つ目は出版社。2つ目は、「取り次ぎ」と呼ばれる、本の問屋さん。そして3つ目が書店です。(『佐藤秀峰 on Web』)

しかし上のように、無駄に複雑なやりとりを得ないと書店に本が並ぶことがない。人手と、金と時間が大量に必要になるために無念にも諦めてしまった佐藤秀峰。そもそも問題なのが何故こんなに多くの中間過程を経なければ本を手に入れることができないのかということである。この中間過程が少なくなればその分本の値段も安くなり、作者に還元されるお金も多くなるのではないか。ということでこのWebでやろうとしている一番大きな事といえば、中間過程を全てなくしてしまうことなのではないか。作者はWEB上で漫画を書き、それを読者にネット上で売ればいいのである。そうすれば面倒くさい印刷の問題が何一つかかわってこないのでそのままネットで送ることが出来る。仮に単行本一冊分を書店で流通するのと同じ値段、600円程度で売ったとしたら本来印税が60円入るところが単純に利益率十倍である。もちろん準備に色々金がかかったり、人を雇ったりもする必要があるだろうけれど書店で売るよりもはるかな利益が見込める。値段も600円にしなくてはいけないということは当然なくて、利益が見込めるなら200円でも150円でも当然いいのである。実際『佐藤秀峰 on Web』のTOPには「オンラインショップ(準備中)」や「ショッピングカート(準備中)」「オンラインコミック(準備中)」などの枠が見られる。しかしこれが成立してしまった場合困るのは出版社や取り次ぎや書店であって、彼らはいったい何のためにいるのかさっぱりわからなくなってしまう。というようなことはほとんど森博嗣がMORILOGで語っていたことで、思い出して書いてみた。しかしMORILOGもWebでいつまでも残っているのかと思いきやこの前見に行ったら消えていた。悲しい限りである。

そういえば漫画貧乏日記の中であくまで紙の媒体にこだわる発言もあるので本当の所はどうなるのかわからない。今まで漫画貧乏日記はその5まで書かれていて、6にてHPを開設するキッカケに触れるそうである。楽しみ。