- 作者: 舞城王太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/07
- メディア: 単行本
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「よう、これが合図だ。動き出せ。踊り出せよディスコテック。急いでな。恐怖に立ちすくむような贅沢なんて、お前にはもう許されてないんだ」
数ページ読んで思い出したのは村上春樹のダンス・ダンス・ダンスだ。もちろん作品のテーマとしてディスコ→ダンス、と自然につながってくるものがあるけれど、それ以上に鮮明に頭の中に閃いたのはヒロインの存在感。村上春樹のダンス・ダンス・ダンスに出てくるヒロインともいえる女の子は「ユキ」13歳の女の子。まだ成長しきっておらず、色々な可能性をうちにひめている。時間が止まっていない。まだ成長し続けている。村上春樹の小説に出てくる中でも恐らく一番年下であろう「ユキ」に、当時読んだ時はかなり強く惹かれたのである。ディスコ探偵水曜日のヒロインは7歳の梢だ。舞城王太郎ヒロインズの中でも断トツに若い。「ダンス」という共通点よりもむしろこちらのヒロインが幼い、という点がひどく気にかかるのである。うーむしかし興奮しすぎてまったく書くことがまとまらない。すべてのスケールがでかすぎて、ついていくことができない。カリン塔に登っていく悟空を下からただ眺めることしかできないウパの気分とでもいおうか。こちらの期待を一身に背負って全力疾走しつづける舞城王太郎を見て興奮する一方で、どこかさびしさを感じてしまうのだ。ウパが寂しかったかどうかは別として。
純粋に面白かったセリフ
「じゃあ結果がわかってよかったじゃん。お前だよ。俺、十一年後の新聞で読んだからな、もう決定だよ」
すると出逗海以外の名探偵たちも驚く。「十一年後!」「新聞ですか!?」「凄い、そうか…もう未来予知とか透視とかそんなレベルじゃないんだ…新聞読めちゃうんだ」
これこそがまさに凄いところで、読んでいるこっちもああ・・・確かにもう未来予知とかいうレベルじゃねえんだな…と愕然とするのである。だって新聞読んじゃうんだから。誰もかれもが意識の持ちようで時間を操ることができるから、もう犯罪なんて一瞬で解決して名探偵なんていらない。空間だって作ったり広げたりできるからそこに子供を三億人もかくまったりできる。時間を細分化して一秒に何百もの子供を誘拐することができる。なかでも一番面白かったのは、時間が操れるもの同士のバトルである。時間が操れるもの同士のバトルでは、どちらがより相手の意表をつくかで勝負が決まるとかなんとか。そもそもどうやって戦うのかというのがまったくわからないのであって、さらにこいつらはわけのわからん方法でお互いに意表を突き合っているのでもはやほんとうに意味が分からない。勝利条件が何なのかもわからないのである。心臓を一突きしても時間を止めて巻き戻して固定すれば復活するわけであって御互いにその状況でどうやって闘えばいいのか? そういう凄さである、舞城王太郎の凄さは。舞城王太郎の作品が今まで文学文学と言われているのを聞いても、いまいちぴんちこなかったのだがこの作品ではピンときた。これは文学であって、SFであって、ミステリーであって、そのどれでもないのだ。舞城王太郎というジャンルなのだ。それが、わかった。
人間の希望があの新世界を作ったことを踏まえて考えるに、もし全ての創造の源が希望、より良い世界が欲しいという気持ちならば、悪がどんなに生まれようとも、歴史の繰り返しがいくら物事をすり減らそうとも、世界は必ず良く生まれ変わるし、その生まれ変わりのの繰り返し自体の摩耗すらも希望は乗り越えていけるはずだ。
そういう音楽(music)の中で、俺は小枝(muse)とともに今も踊り続けている。