- 作者: 架神恭介,辰巳一世
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/05/11
- メディア: 文庫
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舞台が小学生たちというのは一見ウケを狙っただけに見える。しかし小学生というのは誰にとっても本格的に組織に属する第一歩であり、また義務教育であるが故に日本人であるならば、誰もが経験する数々のイベント(遠足、運動会、給食)がある。それらをあるあるネタで身近に感じ取れるのは利点だ。わかりやすい君主論、として、小学校を舞台にしたのは素晴らしいアイデアだといえよう。
また素晴らしいのは、クラスメート全員にちゃんとイラストがついていることである。しかし四十人もいるので結構きつかったのか、頑張って書き分けようとしているのが感じ取れる。うぞうむぞう、と言って紹介された中にやけに個性の強い顔をしたやつらがいて(たつやくんとかどっからどうみてもリーダータイプにしかみえんぜ! あとななみちゃん可愛い! あとなんでようこちゃんは泣いてるんだ? まことくんは本当に人間なのか?)なんかしらんがよかった。
本書では5年3組のみんなが実際に覇権を争ってすったもんだするパートと、それらを俯瞰してみている存在であるたろうくんとはなこちゃんとふくろう先生の解説パートにわけられる。実際にあるあるネタ(かなり激しくされ笑いに特化されているがこれはあるあるネタでいいだろう)で寸劇を見た後に、ガっとわかりやすく解説されているので凄くわかりやすい。何気にちゃんと君主論まとめとしても秀逸である。たとえばこのようにまとめパートが入る。クラス替えにより、以前の君主と離れ離れになってしまったたかしくん。しかしそのおかげで、たかしくんは新しいクラスで、新たな君主として地盤を引き継いで君主候補となった。そこで前から思い描いていた色々な改革を行ったが部下はついてこなかった。世襲君主ではダメなのだろうか?
ふくろう先生「世襲君主というのは、あらゆる君主の中で最も統治が簡単なものなんだ。なぜなら、平民は君主の家計に支配されることに慣れてしまっているからね。たとえ侵略者が世襲君主の政権を奪い取ったって、平民たちが侵略者の統治に納得できなければ、世襲君主を呼び戻そうとさえするんだ。平民達は、とにかく自分たちの生活が変わらないことばかりを願うものだから、世襲君主というのはとても統治が簡単なものなんだよ」
はなこちゃん「愚鈍な大衆は変化を嫌うのね」
※一部省略してます
こんな感じでさくさく進んでいく。全部で23章あり、一章ごとが割と短いので読みやすい。ただし、人名がどうしてもありがちな名前ばかりになってしまうので凄く覚えにくい。どうせならもっと特徴的な名前にしてもよいのではないかと思うのだが。名前も含めてあくまでも「普通の小学生達」が覇権を争っている、というギャップが面白くもあるのだけど。たとえばスグル君という名前で、イラストがどうみてもキン肉マンの子がいた。あれは凄く覚えやすかった。もういっそのこと小学生の能力と、歴史上当てはまる失策をおかした有名人の名前を当てはめるぐらいやってくれたらそれはそれで面白いな。なんて適当なこと言うもんではない。
そしてなんと解説は、君主論の著者であるニコロ・マキャベリ氏である。氏は解説の最初から飛ばしまくりで
まず始めに、我が輩の書が、遥か極東の日本のサルどもに愛読されていることを知り、大変喜ばしく感じている。
まあ、そんな感じ。
以下簡単に気にいったところだけまとめ
1.新しい制度を取り入れようとする者は必ず多くの困難にぶつかる。
大衆は変化を嫌う。その為どんなに改革が優れていようとも実際に体感してみるまでは反対が起こることが多い。こういう場合力ずくで体感させるしか道はない。
2.極悪非道には『良い極悪非道』と『悪い極悪非道』がある。
良い極悪非道は政権をとるために一度に悪行をやってしまい、後は真面目に統治することである。悪い極悪非道は、悪行行為を小出しにすることである。そうすると配下の者は上を信用できなくなり、君主も下を信用できなくなり、面倒くさい。
3.悪評について
ふくろう先生「マキャベリは君主が悪評を受けることについて、悪評を三つの種類に分けて説明しているよ。すなわち、『制謙を失う恐れがあるほどの悪評』は何としても避けろ。『政権を失うほどではない悪評』はできるだけ避けろ。避けられないならさりげなくやり過ごせ。そして、逆に『政権を守るために甘んじて受けなければならない悪評』ならば、悪評を受けることを怖れてはいけない、とね」
4.信義を守る必要はあるのか?
もし人間が良い人間ばかりであれば、守るべきである。実際良い人間ばかりではないので、相手に対して信義を守る必要なんてこれっぽっちもない。しかし信義を裏切ったことを言い繕う努力だけはするべきである。大衆はバカなのでそれで騙されるから。結果さえ残せば、過程や手段はすべて正当化される。
君主が美徳を重んじるのは明らかに有害である。なぜなら君主はいつか悪に手を染めなければいけないときがやってくるから。普段は善人としてふるまい、必要な時は躊躇なく悪に手をそめるのが真の君主である。
5.軽蔑と憎悪を逃れるにはどうすれば良いか。
善行ばかりを行っていれば誰からも恨まれないということはない。その場合は悪人から恨まれるから。軽蔑を逃れるには軽薄で優柔不断で無気力な態度を見せなければ大丈夫である。憎悪を逃れるには憎まれ役を押し付ける。大きな勢力の腐敗をただすことができないならば、その腐敗に自分から手を出すことも必要である。