基本読書

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天涯の砦/小川一水

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

あらすじ

 軌道ステーション“望天”で起こった破滅的な大事故。その残骸と月往還船からなる構造体は、無数の死体とともに漂流を始める。だが、隔離された気密区画には数名の生存者がいた。空気ダクトによる声だけの接触を通じて生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する…。真空との絶望的な闘いの果てに待ち受けているものとは?―小川一水作品史上、最も苛酷なサバイバル。

小川一水の二つの挑戦

 小川一水、いわずとしれたSF作家であり、ライトなSFからハードSFまで幅広くこなす。時砂の王のような、時間を飛び回る難しい作品をコンパクトにまとめ上げたかと思えば、復活の地のような、災害救助をSFでやるという発想の柔軟さも持っている。そして何よりも、小川一水には外れが無い。どれも構成はまともで、一分の隙もなく、物語が破綻をきたす心配は無用である。ゆえに、自分が小川一水に抱いていたイメージとは『SF界の優等生』であった。それは何も作品だけから得たイメージではなくて、本人のブログなどを読んで抱いた印象でもある。とにかく真面目だ。作品の登場人物も真面目な人間が多い。

 1.キャラクター造形の挑戦
 それが今回、サバイバルである。サバイバルといえば、極限状況下、精神がブレていき、誰もが利己的に変貌し、人間の本性がむき出しにされる。医者も居れば、秘密がいくつあるのかもわからない人間がいたり、下品なお嬢様がいたり、子供もいる。小川一水の二つの挑戦、そのうちの一つは言わずもがな、キャラクター造形である。これは何も自分が勝手に言っているわけではなく、本人があとがきで書いていることだ。今までとはキャラクターの造形を大きく変えてきた。まずこの点を評価したい。本書に出てくるあるキャラクター、第一声が「よろしくぅ、ボク。童貞?」だったりする。らしくない、全然小川一水らしくない。しかし、読み進めていくうちに違和感がつのってくる。確かに、らしくないのだが、それでもこれはやっぱりどうしたって小川一水のキャラクターであることに。どうしても自分なんかは、元のイメージがあるばかりに、優等生が無理をして不良のフリをしているような、そんな違和感を感じてしまう。恐らくこれが小川一水初体験ならばそんな感覚は持たないだろう。

 だがしかし、そんなことは些細な問題だ。本書を読んだ事によって、小川一水が今でいう草食系男子などではないことに、気がつく事が出来た。面白い小説を書くという点に対して、小川一水が貪欲だということにである。もっと小説家は貪欲であるべきだ。今までの自分に満足するだけじゃなく、たとえ読者が、今までと同じものを求めているとしても(読者は大抵同じようなものを望む)どこか、違うものを提出していくべきだと思う。何故ならそうすることによってしか、読者は増えない。挑戦し続けるべきなのだ。

 2.ハードSF描写への挑戦
 まあぶっちゃけこっち方面は詳しくないのでちっともわからないんですけれど。一、二の問題点を除いてはかなり現実に近いところまで追い込めたと書いているが、問題点がどこなのかもわからなかった。問題点って軌道エレベーターのことかな? 確かカーボンナノチューブじゃ強度が足りなくて使えないという話を聞いたことがある。さて、描写であるが、第六大陸を読んだ時点でその実力は知っていた。今回は場所が限定されていることもあって、その分、滅茶苦茶練られていたように感じた。といっても本当に全然わからんので、感覚的なことしか言えてないんだけど。