基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

亜玖夢博士の経済入門

亜玖夢博士の経済入門

亜玖夢博士の経済入門

 橘玲の経済入門書。まず最初に、小説であるという点に驚いた。山田 真哉氏の『女子大生会計士の事件簿』のような、フィクションと経済講義が一緒くたになった形式です。そういえばこういった形式の本はあまり見かけませんね。小説を書く能力と、こういった・・・なんだ、ノンフィクション? を書く能力とは別物なんでしょうか。『カーネマンの行動経済学』『ノイマンゲーム理論』『ワッツとストロガッツのネットワーク理論』『チャルディーニの社会心理学』『ゲーデル不完全性定理』の5つをテーマにして、5編の短編集となっています。小説であるから、という点を考慮しなくても、わかりやすさはかなりのものです。自分にはよくわからんのですが、こういう一見難しいゲーム理論やらゲーデル不完全性定理とやらは、物語に落とし込んだ方がわかりやすいんですかね? 『うまくやれば』そりゃどちらでもわかりやすいんでしょうが、小説であることの利点は、『共感を呼ぶこと』によってより身近に感じられることでしょうか? あとはまあ、普通に小説がうまければ二度お得ですよね。本書なんかは黒い笑いを含んだ『笑うせぇるすまん』のような感じですから、そういう部分は普通に経済入門として出したら含まれないわけで小説の利点か。なんにしろ入門書として最適の一冊。

目次──Amazonより

第一講 行動経済学
第二講 囚人のジレンマ
第三講 ネットワーク経済学
第四講 社会心理学
第五講 ゲーデル不完全性定理 

 特に面白かったのは社会心理学と、ゲーデル不完全性定理でしょうか。行動経済学囚人のジレンマはすでにどこかで本を読んだことがあるので候補から外れ、ネットワーク経済学はなんか言っている意味がよくわからなかったです。インターネットの世界の性質として、『大きくて小さい』『ランダム性』『持つものがさらに多くを持つようになる』たとえばイジメなんかがその典型で、イジメの対象はほとんどランダム、さらに一度イジメられるようになるとそれは一向によくなることはなく、その状況を改善しようと思ったらゲーム盤をひっくり返すしかない。つまり、学校を転校するとか。もしくは大きな事件を起こしてそこから目をそむけさせるようにする。というところでしょうか。

 社会心理学はシンプルに面白く、またゲーデル不完全性定理も非常にわかりやすかったです。ゲーデルの言っていることなんてのは、自分は日本語で書いてあるのにも関わらず頑張って解読しようとしても笑いがこみあげてくるほどわからんのですが、へったくそな絵が描いてあったりして親切設計。まあここで書いているのはようするに自己言及のパラドックスで、有名な文でいうと『「クレタ人は嘘つきである」とクレタ人が言った。』これです。ウソつきであるといっているのだからウソつきなんだろう、といっても、それがウソなのだったらクレタ人の言っていることは本当になってしまうがそれだとウソつきではないというぐるぐるぐるぐる。

 そしてこの自己言及のパラドックスはより上位の存在を設定することで解決できます。クレタ人が二人いると過程してください。クレタ人Aの中にもう一人のクレタ人Bがいて、クレタ人Aが「クレタ人(B)は嘘つきである」とクレタ人(A)が言ったとなればええんですね。ただこれもグルグルから抜け切れていなくて、クレタ人Bもわたし(B)ってウソツキ、といったとするとまた同じ事を繰り返さねばならなくなって結局ぐるぐるです。

 博士は頭が良すぎて世界の謎を全部解き明かしてしまう、統一理論が出来上がったら生きている意味なんてあるのか、と悩んだ末に上でいうゲーデル文に救われます。正直万物理論が出来上がる=謎がなくなる、というのはよくわからない、というかそれは『科学』の分野で根本的な謎がなくなるだけであって、他の諸分野ではまだ謎はあると思うのですがよくわからん。何にしろ面白かったです。