基本読書

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「世界征服」は可能か?

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

 『悪とは何だ』『支配とは何だ』その、あまりにもわかりやすい答えが本書にはあった。本書の最後でその結論にたどり着くのですが、鳥肌が立つぐらい興奮しました。タイトルから連想されるようなネタ本ではありません。もちろんそういった側面もありますが、最終的にたどり着くのは善悪論なんですね。それも『世界征服』といった視点から見た。一度僕は善と悪について漫画のキャラクター(主にデスノートドラクエ)を使ってまとめようとしたことが(悪と正義にはどんな特徴があるのか)あったのですが、挫折してしまいました。それはどうにもこうにも『悪』の定義づけの難しさ。常に変わりゆく価値観の中で悪の価値観もまた変わっていくんですが、それを捉える言葉を見つけることができなかった。視点がばらけすぎたんですね。たとえば四十年前のアメリカでは同性愛が『悪』でしたが、現在のアメリカでは同性愛を差別することが『悪』です。『悪』は時代によって変わります。
 いきなり本書全体のまとめを行ってしまいます。「悪」とは「その時代の価値・秩序基準を破壊するもの」です。「その時代の価値・秩序基準を破壊するもの」とは言ってみれば、その時代の一般的にいって平和な状態、であるといえます。つまり「悪」とは人々の幸せを破壊する行為のことです。では「世界征服」とは何か? それは人々から平和な生活を奪う行為です。

 では現代の「価値・秩序基準」とはなんでしょうか? それは「自由主義経済」と「情報の自由化」です。自由主義経済とは「貧富の差の肯定」でもあります。能力があってお金持ちになるチャンスがあった人間はお金持ちになって、その逆で貧乏になった人達には同情の余地なし。それが自由主義経済の考え方です。もう一つの情報の自由化とは、「学ぶプロセス」を軽視します。何年も研究してきた専門家の意見もネットのブロガーの雑感も同じ「情報」という価値で判断されます。

 個人から信念や価値観や考える力を奪い、社会風潮やネット内での流行=「祭り」のみで生きることを当たり前と思わせる文化。それが「情報の自由化」の暗黒面です。

 かつて、情報というのは階級が上の人間だけにもたらされるものでした。一般市民は存在すら知らないような情報を、貴族は知っていたんですね。権力さえあれば、金さえあれば誰も知らない贅沢ができる、それが特権階級の特典でした。しかし今は「情報の自由化」インターネットの普及によって、人々は誰しも情報を自由に保有できるようになっています。たとえば、宇宙に行くことだって数十億払えば可能な時代になりました。特権階級の「特典」は一般市民は金さえ払えれば宇宙に行けると知らない状態で、金があれば宇宙にいけるとしっていることです。憶を超える金が払えるとか払えないとかはまた別問題なんですね。みんな『金さえ払えれば宇宙に行ける』情報に関しては平等です。

 もう一度『世界征服』について考えてみましょう。『世界征服』とは現代の「価値・秩序基準」を破壊することです。現状を否定することです。「自由主義経済」と「情報の自由化」を否定することこそが、現代の世界征服に繋がります。そうなると、現代の「悪の組織」はボランティア組織でエコロジー団体みたいなもので(経済至上主義の廃止)ネットではなく、リアルな人と人の繋がりを求める(情報の自由化の廃止)そんな組織になるのではないでしょうか。そして、そこに至るまでの道が本書には書かれています。さすが2000の男!(「釈迦・キリスト・マルクスが100〜200くらいで、自分はどう低く見積もっても2000の男だ」←本人談)

 いま現在の「幸福」と「平和」にノーを言うこと。
 新しい「幸福」と「平和」を世界に宣言すること。
 これが新時代の、世界征服への合言葉なのです。

世界征服なんてするもんじゃない?

 完全に蛇足ですけど、支配についてもちょろっとまとめておきます。支配といってもいったいどんなものが支配なんでしょうか。たとえば人類はカタツムリを支配しているといえます。かたつむりが束になってかかってきても負けないし、絶滅させようと思ったら多分出来るんじゃないでしょうか。でもこれは『征服に意味がありません』確かに征服はしているかもしれませんが、副次的効果というか、何の目標もない上に利益もない。利益があればいいのかといえばこれもまた違って、たとえば鶏を何十羽も飼っている人たちは鶏を支配しているといえるんでしょうが、別にうれしくないですよね多分。犬を飼っている人も、犬を支配しているんじゃなくて犬の世話をしているだけです。

 自分以下の相手だと支配してもお世話するだけになってしまうんですよ。たとえば大人が幼稚園児を支配したとしても、ウンチ〜とか言われてハイハイ…とか、喧嘩を始めたら仲裁してやらないといけないし。同等の種族であってはじめて「支配する喜び」が湧いてくるのです。まあでも、苦難を乗り越えて同等の種族である人類を支配したとしましょう。そのあとに何が待っているんでしょうか。北朝鮮はミサイルを発射し、アメリカは怒って、中国がかばって、支配者に向かってあいつが悪い! あいつをどうにかしてくれ! といってくるでしょう。小学校の「せーんせーにーいってやろー!」が世界レベルで行われるだけです。問題もでかい分対処が難しい。解決できないと駄々をこねるでしょう。非常にうざいことが予想されます。世界征服なんてするもんじゃないですね。