基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

のぼうの城

のぼうの城

のぼうの城

 石田三成三万の軍勢に、たった二千で立ち向かった男が、いた。その男、成田長親は、領民から「のぼう様(でくのぼうの略)」と呼ばれ、バカにされながらも慕われていた。一見何のとりえもないこの男、しかし、誰にも及ばぬ「人気」があった──。

 いやいや、読む前はなーんにも期待しとらんかったのですが(墨攻かよ! と思わず突っ込んだ)こりゃ面白い。うわ、ベタやなーと突っ込むことしきりな物語運びなのですが、構成と文章が飛びぬけてうまく、王道が故のシンプルな面白さ。こりゃ売れるわーってのが読み終わった時の感じです。主人公は木偶の坊で、武芸はからきしダメで百姓仕事も不器用で、ほんとにダメな領主なのですがいざ戦闘になると肝を据えて戦略の妙を見せる。しかもヒロインは絶世の美女という設定で、何故かダメ男の主人公にベタ惚れ! また、構成と文章のうまさで成り立っているかと思いきや、意外なほど歴史考証もしっかりしていてちゃんとした歴史ものとしても読めるというすぐれもの。これが小説デビュー作というのだから、驚きが隠せない。

 ただ難点といえば、読んでいる間は時間も忘れて読みふけるのだが、読み終わってじっくり考えてみると作中でやっていることは大したことが無い事に気が付いてしまうこと。合戦は一回だけだし、たくさん出てきたキャラクターの見せ場もあまり心躍るものではない。しかしそれらは読みやすさに貢献していて、本書の特徴はその読みやすさにあるのだからどちらが良いとも言えない。ただ欲を言えば個々のエピソードを掘り下げた、もっと長い作品が読みたい、と思ってしまう。歴史小説が好きでたくさん読みこんでいる人達からすれば掘り下げが足りない点は弱点となるだろう。反面、普段本を読まない層には絶賛で受け入れられるだろうが。自分はといえば深く掘り下げてあるのも痛快娯楽エンターテイメントもどちらもいけるので大満足の一冊であった。特に本書は歴史考証がおざなりにされているわけでもないので、文句があるといっても歴史小説好きにも受け入れられるはずだ。面白かった。