あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
- 作者: 長谷敏司
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/08
- メディア: 単行本
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イーガン、チャンを経由し
伊藤計劃に肉薄する
SF史上、最も無機的で
最も感傷的な''死''の情景
以上は帯に書いてある紹介なのですが、『伊藤計劃に肉薄する』ここまで書かれて読まずにいられるはずがない。死についてと、物語についての物語であった。ここまで『死』について特化された話は初めて読んだ。それこそ伊藤計劃のハーモニーよりも。著者はラノベ作家で、円環少女や戦略拠点32098楽園を書いた長谷敏司。円環少女だけ読んでの感想は、やけに難しい造語を多用し、凄まじい設定の量で読む方を圧倒する作品。あともう一つ付け足すならば、言語センスが凄い。ただまあ、設定の量につかれてしまってシリーズを追うのはやめてしまったのだが、なるほど、設定に凝りまくるという特性をファンタジーの分野からSFに持ってくるとこうなるのか。驚くほど直球のSF。だけどもやっぱり設定はわかりづらく、読むのにえらい難儀するのはまったく変わっていない。そこがいいところともいえるのですが、社会の仕組みを分かりやすく提示し、そこから何故世界はこうなったかを端的に示してくる伊藤計劃と比べると、ただ設定のみを記述するこの方法は読みづらいです。
イーガン、チャンを経由し、とうたっているぐらいですので、『意識』についての話です。具体的に言うと舞台は2083年、ITP(Image Transfer `Protocol)という、脳内にない神経配置を創ることが出来る技術が、実用化出来そうなときのお話。ITPがあれば、人間をいかようにも記述できる、つまりは人格だったり、悲しいという感情だったりが自分の思うように制御できるのです。個人の意識を全てコピーすることもできるようになるので、『死』が何なのかわからなくなります。しかし世界では、死を回避することはどこの国でも法律で禁じられています。本書でのテーマの一つは、『人間は死なずにすむ技術ができたとしても、死ぬのが普通だからという理由でいつまでも死に続けなければならないのか?』ではないかと思います。これについても色々ありますが、まあ読んでもらった方が早い。なんだか読んでいる間は書くことが大量にあったような気がしたんですけど、読み終わったら何もかも消えてしまいました。まるで思考が死んでしまったかのように。多分この本に全部書いてあるからでしょう。一応書いておきたい事で、間違いがない事実は、本書は面白いということです。伊藤計劃に肉薄するというのも、まったく正しい。傑作である。