- 作者: 森薫
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2009/10/15
- メディア: コミック
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ただ絵がうまいだけでは、意味がないのです。マンガにおける絵のうまさというのは、物語の必然性と絡まってきて初めて納得して絵のうまさに感動することができる。べつにマンガに限った話ではなくて、たとえば「生物と無生物の間」なんていう新書が結構売れてたので読んだのですが、生物と無生物の話をしているはずなのに著者が立ち寄った街の風景描写が長々と何ページも書いてあって、それは確かに美文で大変よろしいとは思うのですがうざかったですねえ。だって生物と無生物と何の関係もないですからね、町の風景は。そう言う意味じゃ、森薫が自分の興味と関心を一心に振り向け、書いていて仕方がないものが出てくる必然性のある舞台、キャラクターを生みだした時点で、この作品の成功は約束されていたと申しましょうか。
なんだろう、この「全体としての統制感」みたいなものが、ぼくが「凄すぎる作品」として、泣いたり笑ったりする為に絶対的に不可欠な気がするのです。たとえばぼくは映画の「スカイクロラ」冒頭の戦闘を初めて映画館で見た時はぼろぼろと泣いていましたけれど、あれも「いまだかつて見たことが無い空の表現」「細部にまでこだわった機体」「効果音」の三点が見事なまでに調和していたからと言ってしまってもいいと思います。だって、そのあとDVDで見たら全然泣けませんでしたもん。音楽がダメすぎる。一つの要素が傑出しているだけではダメで、全ての要素の相互作用によって凄さが出ているはずなのです。だからこの作品を語る時に「絵が凄い」ことだけを挙げるのはおかしくて、時代、キャラクター、とかそういうのが「絵が凄い」に繋がっているのだなということをもっとよく認識して、もうちょっとなんかうまい褒め方、っていうか別の言い方をしなくてはならんのではないかと自分で自分を叱咤激励するわけです。もうちょっと何か別の言い方があるだろお前! と。
ちなみにホントニスゲェヤ! と感動して泣いたのは、始まって最初にアミルが狩りに行き、うさぎを矢で仕留め、それを馬上から手に取ろうとしているコマへと至る一連の流れです。特にウサギをとろうと馬上から手を伸ばしているところとかもう最高で、空気とか、時間の流れとか、馬とか、ウサギとかスゲェヤ!