基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

キイワードは「飲みこむ」ということ

代表質問 16のインタビュー

代表質問 16のインタビュー

 これは前にどこかで言ったことがあると思うんだけれど、すべての風俗は善であると思ってるんです。原則的にはね。つまり今あり、今おこっていることは、原則的にはすべてナチュラルであると。好き嫌いは、それはまあ人それぞれの勝手だと思うけれど、原則的にはそれはナチュラルだし、そうならざるを得なくなってそうなっているんだから、否定することはできないと。これは頭の中で考えたんじゃなくて、経験則的にそう思います。もちろんみんながそういう風に考えていたら、世の中は困ったことになるかもしれないけれど、少なくとも僕は小説家として、そういう風に考えるんです。すべての風俗は善であると。だから状況と自己の関わりについてスタティックに考察するよりは、状況を前提として飲み込んでいくこと、そしてある意味では自分自身が異化していくことのほうに小説的に興味があるんです。また、そういう流れというのは確実に出てきていると思うんです。──村上春樹

 これはまったくその通りだと思っていて、そしてそうするととても生きやすい、とも思う。また風俗に限った話でもなく、自分自身に対しても適用出来ると思う。自分に適用するとはどういうことかというと、「自分がやっている行動はすべてナチュラルである」という確信を持つこと。もう少し詳しくだと、人間はいつでも、自分にとって一番価値のあるものを選ぶのではないだろうか。価値がみえないときは、価値がありそうなもの、あるいは、いずれ価値が出そうなものを選ぶ。無駄なように見えても、けっして無駄は選択されない。その人が信じる最善の道を必ず選んでいる。怠けた方が良いと思うから怠ける。罪を犯してでも欲しいものが手に入る、そちらの方が良い、と思うから罪を犯す。人を裏切ってでも、自分の思いどおりにしたい、と思うから人を裏切る。人を愛した方が、自分に価値がある、と考えれば人を愛するだろう。全部同じだ。誰もが自分の欲望のままに生きている。ただ、価値を見出す道理が、それぞれで違っているにすぎない。途中から小説家森博嗣氏の言葉が混じってますが、だいたいこういうことかと思います。後悔をするということは、だからあまり意味が無いことなのかなーと。ああしておけばよかった、と未来にきてしまった時に思うこともありますけれど、過去の自分からしてみれば「そーするしかなかった」わけでだから。

 それはさておき村上春樹は、飲み込むことについてのもう少し詳しい説明で、現実を受け入れた後、そこに幻想が生じるといっています。少し引用するとこうですね。

 そしてそれを受け入れることによって、そこに幻想が生じるんです。幻想を生じさせることによって自分を状況にあわせて異化し、それによってサヴァイヴァルするんです。現実と幻想の明確な境界線が消滅していくんです。あっちの世界とこっちの世界とかが補足しあうようになるわけですね。

 ここがぼくには全然意味がわからなくて、現実を受け入れたら受け入れたものは現実なんだから幻想は生じないんじゃないの? と思ってしまう。さらに続けると、現実を受け入れ、幻想を生じさせ、自分を状況にあわせて異化し、それによってサヴァイヴァルする、そして最後に価値観の検証を行う、それが村上春樹が、小説でやっていることらしいのですね。「現実」というとおかしくなってしまうので言いかえると、「状況」かな? 自分が今置かれている状況、それを受け入れる。自分なりに解釈するならば、まず最初に自分がいる、あやふやな存在ですけれど、確かにいる。傍には無慈悲な状況がある、たとえば戦争とかね。当然状況は自分とは違うもので、憎んだり、否定してもいい。しかしそれを自分の中に取り込んでしまう。それは別に戦争を肯定するということではない。ただ受け入れる。そうするとあやふやな自分に状況がまぜこぜになって、つまりはそれが異化なのだろうと。いや、わけわかんないな。否定するには大きすぎる状況だから。嫌いで憎んでいるものも受け入れなくてはならなくて、受け入れたらやっぱり変わらざるを得ない。そこまではなんとなくわかる。

 しかしサヴァイヴァルという言葉がここで使われている意味はよくわからない。どういう意味だろう? よくわからないけれど、そのサヴァイヴァルのなかで生き残った何かの事を、「個性」、あるいは「自分」というのだろう。現実を受け入れる。そーすることによって限りなく「自分」を更新し続けていく。つまりは状況を受け入れることによって生まれる幻想というのは状況そのもののことかな。ただそれは自分の中に取り込んだ瞬間に状況から幻想になる。なぜなら状況をそのまま自分の中に受け入れることはできないから。そして受け入れた幻想に自分を異化するためには、サヴァイヴァル、闘いが必要になる。そーいうことかな。