- 作者: 早川書房編集部
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/11
- メディア: 単行本
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序文──敬意と挑戦
自分の死後の世界を見てみたい──そう思ったことはないか? 新作を書き出すきっかけとなるのは、ぼくの場合、たとえばそのような問いかけだ。他人に訊くのではないから、自問ということになる。なぜ問うのかと言えば、自分では答がわかっていないからだ。わかっているなら解答は一言で済み、それでは小説にはならない。つまりはそういうことだ。自問に対する自答、それがぼくの小説になっている。
序文でまず感動。そうだよな、と思う。神林先生の作品はいつも何をどんな風に描くか決めないで描かれ始めた絵みたいなもので、完成したときに初めてそれが何の絵だったかわかるようになるようなものばっかりだもんな、と。「自問に対する自答」それが神林先生の小説だというのならば、それをルーツをする本書の8人の作家の方々の小説も、多かれ少なかれそういう部分を持っている。読めばわかるのだけれども、驚くほどの多様性がある。笑える作品があれば、神林長平風に、作品によりそって書かれたものもあるし、もう完全に自分の作風にアレンジしきってしまっているものも、それはもう色々ある。
それはさておきトリビュート集なんてものは当たりはずれがあって当たり前で、たとえるならばこりゃジャンプのようなものなので、全部面白いという事はこれはまあ当然、ない。しかもジャンプならまだしも書籍でトリビュート集を買うというのはだからこれって結構リスキーな行為ですよな。しかしそれもテーマが「神林長平」となれば話が違う。どんな作品でもワンランクアップして楽しむことが出来る。なぜならぼくは大ファンだから。本書ではそんな中でも特に「円城塔」と「虚淵玄」の二作品がとくに面白く、次点で「桜坂洋」の作品がくだらなくて面白かった。
円城塔──死して咲く花、実のある夢
円城塔先生は自分の作風全開の語り口で、ようするにまあいつもの円城塔。しかしテーマを死と生という普遍的なものに設定したことで今までよりもなんだろ、切迫感みたいなものが違う。身近さ、といってもいいかもしれないけれど。死をテーマにしているというのはやはり伊藤計劃さんのことも関係があるのか、とかそういえば円城塔先生も「あなたのための物語」を読んでいたから(読書メーターで確認した)ちょっとは影響されてんのかな、とか色々考えながら読んでいた。今までの円城塔短編ではひょっとしたら一番好きかも、というぐらい力のある短編。
虚淵玄──敵は海賊
虚淵玄は小説だけ全部読んでいてゲームは一作もプレイしていないという妙なファンなのだけれども、ノベライズに関しては安定しているので安心して読んでいたらやっぱり面白かった。何を書いてもネタバレになってしまうのでなにも書けないのだが、やっぱり虚淵玄はノベライズうまいなあ。ノベライズがうまいっていうのはつまり作品の要点、構造をつかむのがつまいということなのだろうけれどそれだけじゃなくて文体まで綺麗に似せてくるから凄い。しかしそういう文体を似せる技術も、小説やゲームという媒体が元になっている作品の時だからこそ生きてくるのであって、ブラックラグーンのような漫画作品のノベライズは正直ちょっと微妙だったからなあ。