基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

クリスマスプレゼント

 文フリのコピー本も一緒に作った友人であるKがクリスマスに小説を送ってきてくれたので、せっかくなので載せます。微妙に遅いクリスマスプレゼントということで。ぼかぁ最近あまり本を読んでない上に、だらだらだらとしているので特に書くこともないのでちょうどよろしいです。たぶんSSです。あ、これ別に自分の話なのに「友だちの話なんだけどね・・・」みたいな枕詞で始まる様式美ではないので、ぼくはまったく関与してないので! ではでは、最後まで読んでね。以下略
『あのころ欲しかった愛のこと』作・K

(1)

あの頃の僕らは、まだ自分のことをちょっとしたものだと思っていた。
そしてあの頃の僕らは、同じ社宅に住んでいた。
子供同士とはいえ、親の社内における地位については敏感に感じ取っていた。
母親同士がそうであるように、僕らもその場にいない奴の悪口をいって盛り上がることはしょっちゅうだった。内心ではそれはよくないとわかっていながらも、場の空気に逆らう程の気概もない。
「武田さんとこの奥さん、このごろ太ったと思わない?」
などと母親たちが話始める。
エリーゼというチョコ菓子の白い方ばっかりを食べながらうちの母親もききとして話に参加していて、僕は憂鬱になる。
仮面ライダー電王」のDVDを観賞していた僕たち子供も、親の真似をしはじめる。
「あのくされエモ野郎、最近調子乗りすぎじゃね?」
ノブヨがそう切り出すと、テツオが大きくうなづいた。今日の集会に欠席している武田さんとこの息子であるアキトの悪口タイムのはじまりだ。
「ギター買ってから完全にミュージシャン気取りだからね。こないだなんて、あれだよ。ニルヴァーナの1stのジャケ写の人と自分が似てる気がするとかって言ってんの! マジありえないし! 自分アジア人だろっつー話! 蒙古班ありまくりだろっつーの!」
僕は静かに電王がみたいんだけど、そうやって抗議しても彼らが黙るとも思えないし、「なんでアキトの肩を持つの? ホモなの? おまえらデキてんの?」とか攻められてしまうだろう。だから適当にほほえみを浮かべてやりすごす。
ムンク「叫び」という有名な絵がある。両手で耳を塞いで、ぎゃわーってなってる人間が描かれた作品だ。あの絵は、耳を塞いでいる人物が叫んでいるようにも見えるけど、世界が叫んでいてあまりにもうるさいから耳を塞いでいるのだそうだ。
今の僕もそんな気分。
人生はまだはじまったばかりだ。まだ僕は世界のなんたるかを知らない。けれど憂鬱がどんな感情かは知っている。
「ね、カズマもそう思うでしょ?」
不意にノブヨに同意を求められ、よくわからないままに僕は「そうだね」うなづいてしまう。
母親たちの下品な笑いがリビングにこだまする。
テレビの音が聞こえない。


(2)

僕とアキトはベランダに作った小さなプールに浸かっていた。泳げるほど大きくはないので、温泉に浸かるようにただ体を浸すだけだ。
アヒルとポケモントランスフォーマーを戦わせるのにも飽きて、僕らはしばし空を見上げた。
降りそうで降らないくもり空。
「……最近つかれるわ」
ぽそりとそうつぶやいて、アキトが華奢な肩を落とした。
「へっ、なんだよ? 年寄りくさいこといっちゃって。思春期のじじいかよ」
めんどくさい話題になりそうだったので、ちゃかしてごまかそうとしたんだけど、アキトは真剣そのものの表情だった。
「カズマも気づいてると思うけどさ。俺あんま、人付き合いが得意じゃなよな」
「まあ、そうかも」
「うまくやるためには、感情を偽って、時には嘘もついてさ。肉体と精神を切り離してやってかなきゃなんないのかなぁ。つうか、みんなはそれを当たり前にやってるみたいに見えるんだけど、俺にはしんどいよ」
長いまつげをパチパチさせながらしゃべる。その姿はいつにも増して繊細そうだ。弱くて馬鹿げてるそんな姿を見ていると、イライラしてしまう。
「おまえだけじゃなくてさ。みんなそうなんじゃねーの? 親連中も含めてさ。みんなしんどくてイヤだイヤだと思いながらも、我慢してんでしょ」
ちょっと突き放してみる。答えなんか出ない苦悩の袋小路に連れ込まれたくなかった。
「何のため、誰のための我慢なんだろうな? みんな仲良しっていう薄っぺらな幻想を維持するため?」
「さあ、そうなんじゃねーの? てゆうか、それ使わないんだったら貸してくんね?」
そういって、僕はアキトの手からピカチュウをひったくった。
アキトの言葉から目をそらしたくて、僕はコンボイピカチュウの血で血を洗う死闘を演じることに夢中になったふりをする。
アキトの悩みは、僕の悩みと似たようなものだ。
それだけに、重くて苦しくて。だから向き合えない。気づかないふりをして、だましだましやっていく。
それしか方法がわからないから。
視界の隅っこで、アキトは少しだけ震えていたような気がする。それから少しして、アキトは気を取り直した様子でくすっと笑った。
「カズマ、ごめんな。くだらない話して。ってゆうか、しっこしちゃって」
「ええっ!!」



(3)

母親がパートをはじめた。近所の東急ストアというスーパーで、レジ打ちをしている。
そこのアルバイトにアツヒロくんてゆうすごいイケメン大学生がいるらしく、最近はそいつの話題ばっかりだ。もちろん父親がいないところでだけど。
僕からみるとあれなんだけど、母親もまだ二十代前半なのだから仕方のないことかもしれない。
それはいい。僕ももう、おっぱいっていう年じゃないしね(アツヒロくんがどれだけイケメンだろうと、男と間接キスするのはごめんだ)。
恋をするのは勝手なんだけど、問題は僕がなかなか家に帰れないってことだ。
保育園が預かってくれる限界の19時まで、僕は退屈の中で時間を消化しなければいけない。15時くらいになるとアキトもテツオも帰ってしまう。ノブヨは家では仲良しだけど、外ではなぜかよそよそしい。
正直なところ、こんな退屈な時間を過ごすのは生後間もない頃の保育器の中以来だった。
そんな退屈な世界が劇的に変化したのは、9月に入って間もない頃のことだ。
僕の世界を変革させた存在。それは、転校生のユウナちゃんである。
若い頃のシャルロット・ゲンズブールと、デビューしたての頃のK.T,タンストールを足して二で割ったようなとびきりの美女だ。僕より一コ上のきりん組(年中さんのクラスだ)だけど、年の差なんかは問題じゃない……と信じたい。
僕は出会った五秒で恋に落ちた。
それまでの僕はまだ子供で、本当の恋なんて知らなかったことを知った。


(4)

夏の終わりを感じさせる少しひんやりとした風が、開け放した窓から吹き込んでいる。
夕飯のミートボールがおいしくて、ご飯を三杯も食べてしまった僕は、リビングのソファに寝そべってiPodで音楽を聴いていた。
ラフマニノフの「ヴォカリーズ」が終わって、次の曲がはじまる。ドビュッシーの「月の光」だ。
今日は日曜日だから、父親は朝から家にいる。さっきまで「さんまのからくり御殿」を無言で無表情のまま観てたけど、今はベランダに出てタバコを吸っている。
サザエさんのエンディングテーマを聞いてると、なんか切なくならないか?」
という彼の発言に対して、俺はユウナちゃんを、母親はおそらくアツヒロくんを思い描いてのことだろうけど、二人して「え、月曜待ち遠しいんだけど。むしろ」みたいな返事をしたら「あれっ? あっそう。……それはいいね」って言って、虚無的でひきつった笑顔を浮かべた。
くたくたになるまで働いて、疲れすぎて休日にどこかへ出かける気力も体力もない。通勤電車で遊ぶためのPSPを買って来て、「息抜きだけが生き甲斐だ」なんて惨めったらしい戯れ言をつぶやき、母親にいやな顔をされていた父親。
ようやく三十歳になったばかりの後ろ姿が、すこし老けたように見えて僕は悲しい。
見かねた僕はiPodを外してベランダに出た。
親しみを込めて、尻にジャブを打ち込んでみる。 
「お父さん、タバコっておいしいの?」
「にがいだけさ、こんなもん。タバコ税もガンガンあがるしな。外で吸ってると二千円とられるし、内で吸ってても妻ににらまれる」
「にがい話だね。僕は大人になっても吸わないようにするよ」
「それがいいな」
父親はそう言って、うつろな瞳でフッと笑った。「しっかりしろよ」とどやしつけてやりたくなる態度だったけど、僕はぐっとこらえた。
そしてキャッチボールにでも誘おうかと思ったけど、もう外はくらいし、公園はボール遊び禁止だからやめにした。
「カズマは最近調子どうだい? 幼稚園楽しいか?」
「うん。それなりに楽しいよ」
「そうかそうか。それは何よりだな。俺も子供の頃は毎日楽しかったもんさ。……でも、もし何か困ったことがあったときには、いつでも父さんに言うんだぞ?」
そういって父親が僕の肩に手をおく。
僕は「うん」ってなるべく無邪気に聞こえるように答えたけど、内心では違うことを考えていた。
おそらくは、誰も誰かを救うことなんてできない。僕が父親を救えないように、きっと父親も僕を救えない。
彼は子供時代は楽しかったというけれど、それはただ過去を美化して、つらかったことを忘れてるだけだ。
「あんたたち、風邪ひくわよ。今日はけっこう寒いんだから」
母親がそう声をかけてくるまで長いこと、僕たちは並んで黙ったまま立っていた。父親の灰皿が山盛りだ。僕の親指もふやふやだ。



(5)

「最近、おまえテンション高いよな。なんかいいことあった?」
土粘土をこねながら、アキトが聞いてきた。
「え、そうかな。別になんもねーけど?」
僕はなんとなく気恥ずかしくて、とぼけてみせる。 
アキトはに全部わかってるよって顔でニヤッて笑ってから、保育園の庭で縄跳びをしているユウナちゃんの方に視線を向けた。
「するどいじゃん」
「いや、おまえがわかりやすすぎなんだよ」
アキトが愉快そうにクスクス笑う。
「水くさいじゃないかカズマく〜ん。で、どこまでいったんだよ」
「いや、それがまだ、ようやく友達ってとこかな。今度、相談に乗ってくれよ」
「ああ、かまわないさ。ヒトの恋愛に無責任なアドバイスをするのは楽しいからな。それに……俺もいろいろ聞いてほしいことあるしな」
「ああ、そういえば最近あんまりしゃべってなかったな」
「俺はいいんだけどさ。ノブヨがヤキモチ焼きまくりだから気ぃつけろよ」
「え? ノブヨがなんで……」
僕はちらっとノブヨの方を見る。一瞬目が合ったんだけえど、あいつはすぐに目線を逸らした。 
ノブヨについて詳しい話を聞こうと思ったんだけど、そのとき担任の山田先生がそばに来てアキトの肩をたたいた。
「アキくん、お母さんお迎えだよー」
「もうそんな時間か。じゃあカズマ、続きはまた明日だな」
アキトのお母さん(けっこう美人だ)が山田先生の後についてやってきた。
「粘土で遊んでたの、アキくん。これはなにを作ったのかな?」
「え、ちんこだけど」