や、やべーーーーー!!! 天冥の標、めちゃくちゃおもしれーーー!! 読みながら何度もやべーーーーー!!! と思っていたが、読み終わった時もやっぱりやべーーーー!! と絶叫した!(ついったーで)。読み終えたときには、思わずこの作品がたどり着くであろう大興奮の結末を想像しながら、身もだえした。それこそ現在の白ひげ戦よりも、もっともっと面白くなるぞ、と尾田栄一郎が宣言したワンピースのラストバトルを想像した時と同じぐらい。そして小川一水の場合、それ程遠くならないうちにその結末を見せてくれるだろう。
面白いのはね、わかってた。わたしは小川一水大好きだし、『復活の地』を読んだときから、ああ、どんなにでかい風呂敷でも小川一水ならやってくれるんだな、と絶大な信頼を寄せていた。だからこそ、小川一水が本気で全部をつぎ込んだ、全十巻の物語といえば、それだけで笑いが止まらないぐらい楽しみになるのは当然のこと。わたしはそれが出来るという小川一水をみじんも疑っていないもの。
その小川一水が出してきたのがこれ。第一巻は西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープを舞台にした、革命の物語。植民星といっても、科学技術は植民した当初からロストテクノロジー化しており、生活水準はそれ程高くない。現在のわたし達よりも、低いぐらいかもしれない。でもロストテクノロジーはそこらじゅうにあふれており、人間の奴隷として使役される「石工」であったり、身体を入れ替えることによりほぼ永遠の命を持っている「恋人たち」がいたり、身体が人間とは変化している<<海の一統>>がいたりと魅力的な設定の数々にわくわくがとまらない。その地を統括する領主が、民に対する電力供給を制限してしまう事から始まる民の反乱が、一巻のお話の軸になる。
革命は、なんでこんなにわたしをわくわくさせるのだろうか。読んでいる間、そればっかり考えていた。特にこの「メニー・メニー・シープ」の状況は、現在の日本にも通じるところがあって、人ごとではいられないな、などとも思う。このメニー・メニー・シープの住人たちは何百年もの間、平和で、不自由なことは少しぐらいあっても、『最悪ではないから』といって我慢している人たちなのである。そうやってただただ我慢している間に、政治の場では民をないがしろにした法案が次々と可決されていく。否定することを忘れ、平和に飼いならされていくその状況は、まさに日本ではないか。ただしやられっぱなしではない。その状況を見て、悔む人もいる。
決められてしまった。想像力というものを働かせないまま、誰も関与していないような空気のなかで、極めて重大な結果を引き起こすかもしれないルールが決められてしまった。
いや、決めたのだ。自分が。
鉄の球ひとつを落とす以外にも、できることはあったはずなのに。
作中の重要人物であり、議員でもあるエランカの独白ですが、この無力感はよくわかるなあ。わたしたちはある意味、日々こういう無力感にさいなまされているのだろうと思う。仕事で失敗した時や、人間関係で失敗した時や、あるいはこうやって、自分にはなんとかできたかもしれないのに、通ってはいけない法案が通ってしまった時に。そうはいっても法案に反対するのは大変なのだ。出来るけどやらなかったことは、大抵の場合、大変だからこそ選択されなかったのだ。わたしたちはそこで、「大変だから……」とだらだらしているうちに気合を入れ損ねていて、だからこそ「大変だけど、やろう!」という革命の物語に強い憧れを抱くのかもしれない。
凄いのは、その「大変だけど、やろう!」に至るまでの精神の過程が、全員分詳細に書かれている点だ。アンドロイドから、ただの奴隷ロボット、改造を受けた人間に、特殊な因果を持った男、それからただの議員にまで見せ場が用意されていて、十巻のうちの一巻といえばまだまだプロローグもいいところなのに、そこまで詰め込まれている。同時に最初は植民星メニー・メニー・シープの中だけの話だったのが、時間軸を飛び越え、距離を飛び越え、設定が一つ明らかにされるたびに世界が縦横に広がって行く感覚の制御にも驚いた。序章であるこのメニー・メニー・シープの時点で、明らかにされているSF設定は全体のほんの一部だろう。これから先の展開に、目が離せない。とりあえず、今すぐ二巻を買ってこよう。最後に、「恋人たち」が子供を産むことが出来ない代わりに、芸術作品を作り上げることおに特化しているのは、やっぱり何かを創る、ということは子供を作ることと同じようなことなんだな、と思いました。
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
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天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
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