基本読書

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大味の物語を大味の設定でぶった切る──『いばらの王 –King of Thorn-』

 池袋にて。原作未読。しかしよくわかるように作られていて、原作付きの映画化にはよくありがちな、「尺足りてないよ〜〜」というあれを感じさせない、よくまとまった素晴らしい映画でした。世界の危機、コールドスリープで生き残った人類、周りには誰もおらず、なぜか怪物が存在し、なんとかして脱出しなければいけない──そんな大味な物語です。「世界の危機」系にありがちな突っ込みどころばっかりの作品じゃあないかと思わせておいて、後半一つ一つの違和感が溶けていく感覚が最近の作品には無いところで、その為に一つ一つ伏線を積み重ねていくあたり、本当に凄いなと思いました。いばらや、敵として出てくる怪物のヴィジュアルイメージが強烈でちょっとしばらく忘れられそうにありません。

あらすじ

 2012年、謎の奇病にして致死率100%の恐ろしい病気メドゥーサが世界的に流行する。感染した人間は30〜60日前後の潜伏期間を経て、発症したのち訳12時間かけて石化していく。止める手段は何一つ見つからず、一つの先進的な技術を持った企業が「コールドスリープ」を実行し、病気の治療法が確立されるまで凍結させてしまおうとします。その候補はわずか160人ほどでしかなく、抽選で幾人かが選ばれるのですが、彼らがスコットランドの離れの、豪勢なお城の中にあるコールドスリープに入った後、目を覚ましてみればそこには化け物が跳梁跋扈する恐ろしき新世界が! 彼らはその極限状況下から、脱出することが出来るのか! とかそんな感じです。何故そんなことになってしまったのか、ということと、ここに至るまでの数々の不審な点が明らかになっていくのはやられた! と思いました。

その他

 まずね、奇病が蔓延したからといっていきなり「コールドスリープだ!」と叫び出すのがありえないんですよね。なぜならコールドスリープとかいうわけのわからない極論に走る前に、色々とやることはあるはずなんですよ。「コールドスリープ」ってのはまあ便利な道具ですよ。でもだからこそ、それが使用されるのは核兵器と同じく、最期の最期であるべきなのです。なのでふぁびょったキチガイの所業としか思われないんですが、もちろんそこには「コールドスリープ」と叫び出した理由がある。そして160人しか選ばれないにも関わらず、割と選ばれるのはふっつーの人なんですよね。ほらこういうのって、壮絶な権力のパワーゲームによって政治家ばっかり! になるのが常套じゃないですか。なのに、普通にみんなちゃんと抽選で選ばれたように見える。これもまた罠なんですな。あんまり書いちゃうと楽しみが全然無くなってしまうんでもうここらで辞めておきますが、もうほんとに、色々騙されますよ。「違和感だな」と思ったら、そこは後々解消されて「スッキリ」するので、気に留めておくといいと思います。

 世界の危機を、大味にぶった切るとこうなるんだぁという映画です。最初はね、たぶん誰もが「ああ〜面白いけどツッコミどころありまくりね」と思うんですよ。でも途中から「ああ〜えええ!?」と驚きの連続。「え、ちょっとまって? ていうことはアレも?」と過去にさかのぼって色々考えている間にも映画はどんどん進行していく。そして最期の最期までちゃんと「驚愕の事実」が用意されている。『シャッターアイランド』は驚きの結末を売りにしていますが、ぼかぁ間違いなく『いばらの王』を押します。うん、用意周到に罠(伏線)を張っていき、適切なタイミングで回収していくので、とても論理的な映画だと思いました。

いばらの王 (1) (Beam comix)

いばらの王 (1) (Beam comix)