基本読書

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フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略/クリス・アンダーソン

いやはや、大変面白い一冊。最初は読む気なかったんだけどね、今や誰もがこの「フリー」を軸に論を展開しているようなところがあって、「あ、こりゃ読まないとおいてかれる」という恐怖を感じて読んでしまいました。この本、核となる部分は、そんなに長々とあるわけではないのです。むしろ非常にシンプルといってもいい。じゃあ他の部分は何のためにあるのかと言うと、「フリー」成功の実例を引用して、引用しまくっているんですね。音楽、本、スーパー、グーグルと幅広く網羅したその実例集を読んでいるだけでも楽しいものがありました。

ちなみにこの「フリー」の核となる部分をまとめると、1.競争市場においては、価格は限界費用まで下落する。2.テクノロジーの限界費用は年々零に近づいている。3.低い限界費用で複製、伝達できる情報は無料になりたがり、物質でさえも限界ギリギリのところにまで値段が下がる。4.潤沢にあるものの無料化は止めることが出来ないので、むしろそれを活用する方法を考えよということだ。

1.の競争市場では価格が限界費用まで下落するというのはベルトランという人が提唱した<ベルトラン競争>という理論から。内容:企業は生産量を制限し価格を上げて利益を増やすよりも価格を下げてシェアを増やす道をとりやすいので、結局のところ競争の果てに限界ギリギリまで安くしようとするとのこと。絶対! というわけじゃなく潤沢な市場では生産量を増やすことが簡単なのでベルトランの理論が勝つ可能性が高いのもん。で、この理論を適用すると、テクノロジーの場での競争もまた限界費用まで落ち込むのだけれども、その限界費用は限りなくゼロに近いのだ。なぜならアクセスするのや、記憶容量を手に入れるのに多少のお金がかかる他は、流通、複製する為のコストはゼロだから。紙幣をすりまくればその紙幣の値段がゼロに近づいて行くのと同じように、いくらでもコピーできる情報の値段はゼロに限りなく近づいて行く。それはいくらでも複製出来る以上、当然であり、本書ではその性質について「ビットは無料になりたがる」という言葉で表現されている。

物質は情報のように無限にあるわけではないので、価格はそこまでは落ちない。しかし誰もが隙あらば物質を情報に置き換えられる部分は置き換えてしまおうとするので(本とかね)いずれ物質も無料に出来るところは無料にされていく。そんなことになったらビジネスがまったくなりたたねーじゃねえか! と思うが、そうではないというのが本書の主張。むしろこここそが肝であり、本書ではフリーを利用したありとあらゆるビジネスモデルの紹介が行われている。たとえば音楽を無料配信し、ライブに来てもらいお金を回収した話。オンラインゲームを基本無料にし、より楽しみたい人だけは課金する話。たとえばコンテンツは無料にし、広告主から掲載料をとるAmazonアフィリエイト式などなど。ここばっかりは実例を一つ一つ紹介していくわけにもいかないし、ほんとにこれが他の場合にもちゃんと適用されるのかどうか(もちろんその為には、無料で人が殺到するぐらいのクォリティが必要だろう)わからんので、読んで確かめてほしい。

個人的に凄く面白かったのは、今までに持ってた違法コピーあんまりよろしくないなぁ、とかアマチュアだった人がやっすい値段で仕事を受けるせいでプロまで仕事が出来なくなる状況には、抵抗しないといけない! という価値観がぐるっと反転してしまったところ。むしろ「状況受け入れて、その状況下で何が出来るか考えなければいけない」という考えに変わった。そうすると、随分と色々なことがわかりやすくなって、考えやすくなるんだよね。その変化って、正直一冊の本で受ける影響としては凄く大きいと思う。本が面白いのって、考え方がまったく変わってしまうところにあるわけで、読むだけで変わってしまうんだから凄いな、本、スゲー。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略

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