基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

『告白』を見たよ

みてきました。驚くほど良かったです。冒頭、10分から15分にわたって、娘をクラスの中の誰かに殺された、森口先生という方が延々としゃべり続ける場面があるのですが、そこからもう圧巻。ただただ教室の間を歩き回りながら、延々と自分の考えを「告白」し続けるのです。ただ喋って歩き回っているだけなのに、目が離せない。生徒に向かって話しかけているように見えて、その実ただただ独白をしているようにも見える。話している内容は、命について、子供を殺された時の気持ちについて、そして「誰が」殺したのかについて。

原作を未読だった自分は、この映画の予告編、教師が一人クラスのまん中に立って、「この中の誰かが私の娘を殺しました」とだけいう場面しか知らなかったので、「たぶんミステリィで、誰が殺したのかを捜査していくのかな?」と思っていたのですが、一番最初の時点ですでに「誰が殺したのか」はもうすでにバレているんですね。そしてその告発をすると同時に、森口先生は相手を徹底的に追い詰めるような言い回しをする。たとえば誰が殺したのかと言う事が、クラスの中で明らかになってしまえば、明らかにされた方はもうタダじゃあすまないですよね。


そういう「殺人犯が判明した、その後」を書いた作品が、この「告白」なんですよね。そしてそこから始まっていく崩壊が、とても恐ろしい。


個人的に一番良かったのは、「人間が持っている二面性」を凄く的確に表現していたと感じたところです。どうやって「二面性」を表現しているのか? それはたとえば、映像と言うメディアだとあまり見られない「視点」の切り替えによって行われていたと思います。たとえば、僕が有る人に向かって「あ〜死にてぇなぁ〜〜」と言った時に含まれている意味は、そのまま一つ「死にたい」というだけの意味ではない。裏の意味は「慰めて欲しい」なのかもしれないし、また違う何かかもしれない。一つの言葉には複数の意味が込められている。

そのことを端的に表していたのが、「告白」して一人去って行った森口先生の後任にやってきた良輝先生です。典型的な熱血教師で、しかし現実が見えていない。生徒の誰ひとりとして彼を慕っていない、慕っているふりをしているだけにも関わらず、彼だけは自分が慕われていると思い込んでいる。本心を隠されているだけなのに。

また一見、仲がよさそうに見える二人の片方は、相手をただの暇つぶしにしか見ていない、そういう状況もありえる。この『告白』という映画の中では、誰もが嘘をついていて、一見「告白」して去って行った森口先生ですら嘘にまみれている。出てくる生徒たちもみんな嘘をついていて、しかし「視点」が入れ替わった時に、「告白」という形でその嘘が暴かれる。僕達は会話する時には、先程も書いたように「二つの意味を持たせる」ことなど当たり前に行っていますが、その「裏の意味を言ってしまう」のが「告白」なのかな、と思います。

そして本来隠されるべきであるはずの、裏の意味の告白は、発せられた瞬間にどうしようもないほど場を破壊してしまう。とても恐ろしい話でした。最後表と裏が同時に出てしまったような、泣きながら笑う森口先生をみて、本来あまり好ましいものと思われない人間の二面性というやつは、こんな風に凄く美しく撮れるもんだな、と思ってびっくりしてしまいました。

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)