基本読書

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ローマはなぜ滅んだのか/弓削達

最近ギリシャを舞台にした『ヒストリエ』やハンニバルスキピオが出てくる『ドリフターズ』を読んだ影響で、ローマ最強! ローマ面白い! 熱が再熱(昔ローマ人の物語を熱狂的に読み漁ったことがあった)してきたので、なんかローマ関係の本を読もうと思った時に目に入ってきたのがこの『ローマはなぜ滅んだのか』であった。

序 「ローマはなぜ滅んだか」となぜ問うのか
1 ローマ帝国の繁栄とは何か
2 道路網の整備
3 ローマ帝国の経済構造
4 経済大国ローマの実体
5 爛熟した文明の経済的基礎
6 悪徳・不正・浪費・奢侈・美食
7 性解放・女性解放・知性と教養と文化
8 ローマ帝国の衰退とは何か
9 第三世界(「周辺」)への評価の岐れ道
10 ローマはなぜ滅んだか

初版は1989年であり、現在に至るまでに三十七刷以上を重ねているロングセラーなのでもちろん内容に心配はなかったけれども、読み終わってみればやっぱり面白かった。それは本書の序文でされる問いが、「ローマはなぜ滅んだか」となぜ問うのか? であることからもわかる。歴史上多くの国が滅んできた中で、「なぜローマに焦点を当てるのか?」そこには何らかの理由があるはずだからである。

シンプルにその理由を説明してしまえば、ローマ帝国が私達にとって重要な意味を持っているから、である。では重要な意味とは何か。それはローマの世界史的位置とかかわっている。

ローマは世界史上まれに見る大帝国を設立し、これまた比較できないほど長い年月の間発展させることができた。「ローマは一日にして成らず」であり、またローマを中心に縦横無尽に張り巡らされた「道」すなわち「すべての道はローマに通ず」ということわざに表されているような、「世界の中心」としての役割が、ローマの世界史的位置であった。

古代オリエント文明、ギリシア文明、ラテン、ローマ文明などの高度先進文明からそこから技術水準がかなり劣る種族までを含む発展度の異なる諸民族と、広大な地域を統一し(ローマ滅亡後、それだけの地域が統合されることはなかった)平和と支配を持続させ続けることが出来たのは「なぜだったのか?」

多様な文明度の異なる諸民族を統合し、平和状態に持っていかなければいけないのは現代も同じである。それならば、すでに過去においてモデルとして機能しているローマ帝国が滅んで行ってしまった理由を考えてみて、私達の現代世界においての解決策を探そう、というのが本書における「問いの問い」への答えである。

さて、肝心のローマが滅んだ理由だけれども、読んだ限りだと「慢心」の一言に尽きるような気がする。あるいは「平和ボケ」した結果による独立と自由の精神の消失である。まず第一に、ローマは過剰な格差社会であったようだ。大多数の人は農耕で生計を立てていたが、そのほとんどは税と自分たちの生活の為に割り当てられ一部の支配層はその税で贅沢の限りを尽くす、という構図が一般的になっていた。

ローマ帝国が豪華絢爛、誰もが平和で派手な世界だという認識は間違いではないが、派手な世界を作り上げていたのは上位数%の特別な支配者層の財産によって、であったのである。

このような現状は現代世界においても発展途上国と先進国の対比によって浮かび上がってくる。またこうした巨大な財産を持つ者達によって、さっき述べたような「慢心」「貪欲」「浪費」などが活発に行われるのである。一例をこっちに書いておいた。2010-07-14 - 基本読書ニュース

そのような豪華絢爛な帝国の中で堕落しまくっていく中で、ローマ人による特定の民族におけるアレルギーが出てしまう事があった。実はこれが直接的にはローマ帝国を滅亡させる要因となってしまう。

特に明確な理由があったわけではなく、ゲルマン人の有能な政治家、スティリコが政敵の陰謀に敗れ、反逆罪によって処刑されてしまう事件から思わぬ事態へと進展していく。スティリコが処刑された時に、他にもゲルマン人のことをよく思っていなかったローマ人がローマ在住のゲルマン人部隊兵の家族を殺戮してしまうのだ。

それまでゲルマン人はローマに数多く存在していて、軍人の大半もゲルマンだわ政治家もいっぱいいるわで結構依存していたのにそんなことしてしまったので、なんかもーひどいことになった。具体的には戦争になった。そんでもってローマは都市を占拠された。なんてこった。

最後の方面倒くさくなって駆け足になってしまったけれども、要は「世界の中心」として存在していたローマは、中心の周辺として存在していた他民族、今で言う第三世界住民、発展途上国の人達と立ち場が入れ替わってしまい、亡びたのである。どんな文明であっても、永遠に栄えることはない、ということの見本であろう。

永遠に栄えることはないから、かつては栄えていないところが、今度は栄え始めるのである。であるならばローマが結果的に滅んでしまった理由は、周辺、蛮族に位置するゲルマン人を排斥するのではなく、彼らとともに、自分たちの文明を多様に変化させながら成長していく度量を持てなかったところにある。

この事は現代にいたるまでも、頭に入れておいた方がいいだろうなぁと思った。

ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)

ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)