基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学/パコ アンダーヒル

ショッピングというのは男性の方々には「出来るだけ早く終わらせたいもの」であり、「やっていてあまり楽しいものではない」ものだということだろうと思うけれども、本書を読めば見方が変わって少し楽しくなるだろうと思った。実際僕はこの本を読んでから店に入るたびに「カゴの配置がなっちゃいねえ」とか「この店はレジの待ち時間において致命的な欠陥を抱えている」とか専門家ぶって考えるようになってしまった。

それはそれで一つの弊害と言えるだろうけれどもしかしまあ見方、視点が一つ増える読書というのはそれだけでも楽しい。本書はおもにショッピング、つまり店に入って、色々なものを手に取り、「これを買おう」と決めるその瞬間までの間に人間はどんなアクションを起こして、どんな配列、どんな要素がそのアクションまでの過程で重要な意味を持っているのかを分析した一冊。

その意味でいえば一番読んだ方がいいのは小売り業者だろう。本書の分析方法はトラッキングというもので、店に入ってきた客に気づかれないように追跡し、何秒間Aを手にとって見て棚に戻した、何秒間この通路を歩くのに時間をかけたなどといった細々とした事をすべてメモにとりこのデータを何千人分も集めるものなのだけど、それが意外なほど役に立つ。例えばこんな風に

 現在、ドラッグストアの顧客の大半が高齢者であり、しかも顧客の高齢化は進む一方だ。日常的に読む必要のあるすべての活字のうち、処方薬、市販薬とを問わず、薬のラベルや使用法、注意書きは何より大切なはずだ。スキンケア製品を例にとると、顧客の九一%が箱や瓶、容器の前面のラベルを読んでから商品を買うという結果がでている。さらに購入した人々の四十二%が裏面の説明にも目を通していた。スキンケア製品をはじめ、ヘルス&ビューティ用品の購入にあたっては読むという作業がつきものだ。(p.174)

しかしドラッグストアで売っている薬のほとんどは高齢者にはキツイ文字の大きさであることが多い。これは新聞にも同様のことが言えるだろう。今や新聞を読む読者はどんどん高齢化しているのにも関わらず、新聞の文字は相変わらず小さいままだ。「読者」が誰なのかを考えずに物を売り続けるから、そういう錯誤が起こってしまう。そしてそれは本来の読者、消費者にとっても不幸な話であるし、売る側にとっても不幸な話だろう。

視点が増える読書、というのは楽しいものだなぁと本書を読んでいて思った。いや、これが本当に、店に入るたびに色々気になってしまうようになるんだなぁ。あと本書は何故かやたらとユーモラスで、しょっちゅう笑えた。たとえばこんな風に

 われわれの解釈はほとんど正しいが、ときには間違っていることもある。だからこそ、われわれは調査しつづける。たとえ、わが社の役員たちが一年のうち九十日間も出張して店舗めぐりをし、週末をつぶして世界各地の商店、銀行、レストラン、ショッピングモールへでかけることになっても。われわれの私生活がめちゃめちゃであることは、とにかく自信をもって断言しよう。(p.338)

どうだろう。僕は結構面白いし笑えると思うのだけど、センスは人それぞれな上にここだけ読ませられても何だかなあという感じか。蛇足すぎるのでこのへんで。

なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 (ハヤカワ新書juice)

なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 (ハヤカワ新書juice)