基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて/長沼 毅,藤崎 慎吾

これは面白いですね。読んでいて久しぶりに血がたぎってくるような新書でした。というのも本書は微生物の科学者であり、「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれる程に地球の辺境(深海、砂漠、南極北極、はては地下まで)を転々として研究をしている、辺境人間の長沼毅と、SF作家であり『ハイドゥナン』などの作品で知られる藤崎慎吾の二人の対談集なのです。

普通の対談集ならば「じゃあ、会議室で」となるところですが、二人は何故か辺境について語るんだし、科学界のインディ・ジョーンズが会議室で対談するのはなんか違うでしょうと日本における辺境を舞台にして対談を行う。その際の以下に引用した長沼氏によるコンセプトが、本書を読んでいて血がたぎってきた一番の理由である。

 この本は、辺境に生きる生物たちの「たくましさ」を知ることで、生命のすごさを感じてもらいたいと思ってつくった。また、それとともに、辺境の地に赴くときの昂揚感も共有してもらえたらいいなと思った。だから、専門的なことよりも、僕が体験したこと──多くは失敗──をたくさん語ることにした。(p.405)

深海から砂漠から南極北極にまで一人の人間が行くというのは、専門が極めて限定的になっている現代だと珍しいんじゃないかなあと思う(しかも長沼氏は宇宙飛行士を目指したこともあったとか。選抜試験に落ちたそうだが)。深海にも南極にも地下にも、普通一般人である僕のような人間は行こうとも思わないわけだが、そういうところに行く人の話は凄く面白い。現代では珍しくなってしまった、不思議・謎、に満ち溢れているからである。

例をあげると、しんかい2000で深海に戻ってカニの観察をしていたら(深海にいるカニは何故かエサが出現すると凄い速さでわらわらと群がってくるらしい)カニがえさを持っているしんかい2000にわらわらた群がって言った話は凄く面白かった。あとは、海底にあるという熱水噴出孔(通称チムニー)をチームで探していた時の逸話は最高に笑った。ちょっと引用してみる。

藤崎 そのときは、みんなで画面を見て……。
長沼 うん。たとえば、映像を見ている間にコシオリエゾがだんだん増えてくる。そのうちに死んだシロウリガイの殻が転がっていたりする。「おかしいな、おかしいな。何かが近いぞ」と。そして「そろそろ来るんじゃないか」と思ったときに、パッと出たね、チムニーが。
藤崎 感動の瞬間ですね。
長沼 うん。「ウォー! やったぁ!」って……。JAMSTECに田中武男さんという人が居て、今でもおられるんだけれど、そろそろ来るってときに「ここは慎重に……」なんて言いながら、見た瞬間「チムニーだ! チムニーだ! チムニーだ! チムニーだ……」と合計17回も叫んだ(笑)。
藤崎 17回数えたんだ(笑)。

読んでもらえれば分かると思うが、この実話の面白さと言ったら。そして何と言っても忘れてはいけないのが、良い相槌をうつ藤崎氏の尋ね方である。学者でもない、作家にも関わらずなぜかとてつもなく博識で、長沼氏の広い知識にしっかりとついていっていて驚いてしまった。このほかにも、乾燥しきっているせいで大気中に余計な水蒸気がない為、天井がない感じがする綺麗な砂漠の空の話とか、幅広い経験から来る実体験の数々が、まるで自分もそこにいったような感覚にさせてくれて、凄く楽しかった。写真がカラーで大量に収録されているのもその一因だろう。

いやあ、いい本を読ませてもらった。

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)