本書を読んでいて一番思ったのは、「これは本当のことなのか?」というような疑問でした。誰も信じてなくて、僕だけ無知なので信じてしまっているのかな? と。まあ実際問題本書はかなり強烈に訴えかけるように、出来るだけ強いインパクトを与える表現、描写を使っているとは思います。鵜呑みにしてしまうことこそが、一番危険でしょう。しかし本書で書かれているような「自由が消えていくアメリカ像」はある程度は真実でしょうし、ある程度真実でもかなりヤバイな、というのは読んでいて非常に伝わってきます。
たとえば日本では非実在少年法の話が最近ではかなり議論されていましたけれども、アメリカで行われているのはそんなレベルの話ではないということが本書には書いてあります。状況が大きく変わったのは、9・11以降だといいます。日常にテロリストが潜んでいる恐怖を建前として、その為に国家の権力・監視を促進しなければならないと声高に宣伝したのだそうです。
その時に凄い速さで通ってしまったのが「愛国者法」。この法によって国内でやり取りされる電話、Eメール、ファックス、インターネットなどの通信を政府が勝手に監視することができるようになってしまった。同時に本屋も医者も図書館は貸出記録を、そういった情報を全て政府の要請に応じて提出させられるのだとか。本書では客が本屋で本を買って行ったそのすぐ後に警察が「あいつは何を買って行った」といってその本が政府に批判的な内容の本だと家までいって色々質問することもあるという。
もう少し具体例を載せておこう。たとえば……、2006年にブッシュ政権を批判するベストセラーの著者はアメリカ国土安全保障省に「国家にとって極めて重要な安全保障体制に対する許可なき撮影」という内容で告訴された。二人は収監された。たとえば……、小学生の男子児童がアニメデスノートの影響でノートに生徒や教師の名前を書いているのを教師が発見し、通報した。結果児童二人は逮捕された。いくつかの州では警察が子供たちに「友人があやしげな行動をとった時に近くの大人に知らせる方法」をイデオを使って教える時間があるという。
たとえば……、オバマ大統領の『医療改革法案』について、おかしな噂、間違った情報がインターネットに溢れていると言って人々に不安を与えているので、政権についての少しでもあやしげな発言や情報を発見したら以下のアドレスに通報してくれといった関係者がいた。多くのアメリカ人はこれを相互監視社会の始まりだとして騒ぎたてた。たしかに一見したところ現代の魔女狩りのようにも見える。またこれ以外にも政府は金で雇って政府に好意的なインタビュー、メディアの利用を数多くしているという。そのお金はもちろん税金から出ている。
本書が優れているのは上記にも色々書いたけれども、具体例の多さだと思う。あまりにも偏った例ばかりだし、何の根拠もない話が多すぎるのではないか、という批判は当然あるだろうが、しかしこういうことが偏っているにせよ何にせよ、これが起こっていることの一部であるというのは興味深い。今となってはもう、「日本とは関係ないし」なんてことはないですもんな。非実在少年法なんて甘かった、と思う時はそう遠くないだろう。
カントは真に理性的で啓蒙的、要するに自分で考えることが出来る人間になる為にはただ「自由」があればいいといった。人間の理性の公的な利用だけが、人間に啓蒙をもたらすそうだ。国の運営に対する失策を指摘し、これを公衆に発表しその判断を仰ぐことが妨げられないことこそが理性の公的な利用なのだ。「政府を批判したら逮捕される……」なんて考えてしまうような時点で、国は衰亡に向かっているだろう。
読んでいたら、これから先なんとかして、<言論の自由>を守っていかなければならないんだろうなあ、と思ってちょっと憂鬱になった。以下目次
目次
クリスマス・テロと拡大する警備・搭乗拒否リスト
乗客を裸にする「ミリ波スキャナー」
「過度なセキュリティ・チェックは単なるショーだ」
欧州諸国も次々に「ミリ波スキャナー」を導入
増え続ける監視カメラ
拙速に通過した「愛国者法」
安全保障への脅威から戦争へ
拷問のアウトソーシング
オバマ大統領の拷問禁止宣言
拷問には社会全体を沈黙させる効果がある
「特別軍事法廷法」
市民団体や学生、集会やデモが標的になる
教会や団体職員、学校がターゲットに
ナショナル・セキュリティ・レターズ(令状不要の召喚状)
科学者、大学教授が口を封じられる
子供たちもテロ容疑者に
逮捕されるジャーナリストたち
ネット世界が狙われる
政府の広報担当と化したジャーナリストたち
メディアのスクープに「諜報活動取締法」は適用されるか?
政府に雇われた偽軍事評論家たちとメディアの責任
政権交代後も続くEメール、ファクス。電話の盗聴
「政府の政策に反対する者がいたら通報してください」
「戦争VS平和」という図ではもうない
“言論の自由”を取り戻そうとする人々
「落ちこぼれゼロ法」と「リアルID法」に対する反対決議
ネット業界や書店による抗議運動
「抵抗の原動力は建国者たちの精神です」
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