日本で今飼われているニワトリの数は約三億羽で、世界中に散らばっているニワトリを合わせると百十億羽になるという。およそ人間の二倍であり、数だけでいったら人間よりもニワトリのほうが地球の住民としては力が強い。これはどんな家畜も及ばない圧倒的質量であり、僕たちの生活になくてはならない家畜ナンバーワンはこのニワトリなのです。
そしてそんなニワトリを解説したのがこの一冊。著者である遠藤秀紀さんのニワトリ愛があふれかえっている。
ただ、愛されているかといえばそれは疑問ですな。日本国内で生産されるニワトリの卵の質量は年間で250万トン、そして日本人は一人当たり年間11キログラムもの鶏肉を消費するその圧倒的量を担保するために、ニワトリには酷な現実が存在する。
人間に卵を、肉を、効率的に食べさせるためにニワトリは改良に改良を重ねられ卵製造マシーン、肉製造マシーンと化しているのが現状だ。一匹のニワトリが年間に産む卵の量は約300個。その尋常ならざる数字を達成するために、初産日齢を引き上げ、生まれて700日経つと産卵能力が衰えるので廃棄される。
多くの人は卵を産み終わったニワトリはそのまま肉になると考えるかもしれないがそれは違うようだ。卵を産み終わったニワトリはそのまま肉にならず廃棄される。
肉は、肉を生み出す専用のニワトリ、こちらは生まれてから50日で通常では考えられないほど急速に成長し、すぐに肉にされ出荷される。生まれてから50日の命だ。そういう肉専用のニワトリからしか採取しない。
経済的合理性が生み出したひとつの仕組みだけれども、聞いていてあまりいい気分はしないし、これを愛と言い張るのは少し違和感がある。しかしひとつ確かにいえるのは、これほど人間に必要とされた家畜は、ニワトリ以外にはいなかったということだ。
しかしなぜニワトリなのか、というのが本書のキモであり面白いところでもある。なぜニワトリは、これほどまでに人間に、必要とされているのか。答えは、「多芸さ」あるいは「いい加減さ」にある。人間社会へとニワトリの性質がさまざまに合致した結果、これほどまでにニワトリは普及したのである。
たとえばニワトリはおよそどんな社会でも、暑くても寒くても荒れていても庭が狭くても飼う事ができる。えさも非常に少なくてすむ。また、小さいから移動する際にも簡単に持ち運ぶことができる。
ここからはいい加減さの領域だ。あるところではニワトリは時を告げる目覚まし時計として機能し、あるところでは戦わせて楽しむ軍鶏として賭けに使われ、またあるところでは鶏は占いに使われた。
人間社会への適応パターンの豊富さこそが、鶏を人間社会にとってなくてはならないものにした。そして今では目覚まし時計としての機能はなくなってしまっても、お肉として日本中の人に食べられている。毎日毎日卵を食べ、肉を食べている僕らだけれども「この裏には実在するニワトリがいるんだ」ということを、忘れてはいけないなと思った。
- 作者: 遠藤秀紀
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/02/17
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