最初は、人類だけで機械はなかった。それから、人類は機械を手にした。そしてついに、機械だけで人類はいなくなった*1
いやあこれは凄い。21世紀における戦争の、革新的な部分を「ロボット」に認めて、その全体像を語っていく。第一部ではどのようなロボットが今戦争で使われ、生まれていているのか、それによる戦争と日常生活の変化を解説。二部からはその変化が、人類に対して何をもたらすのかを解説しており、その幅の広さ、説明の深さはちょっと他では見られない程。
著者のP・W・シンガー氏は『戦争請負会社』『子ども兵の戦争』などで一躍名を挙げた研究員にしてCIA議会の顧問を務め、オバマの大統領選では国防戦略をとりまとめたエリート中のエリート。おまけにイケメン。ちくしょう!! 死ねばいいのに!
いやしかし本はめちゃくちゃ面白いです。ちょっとどうかと思うぐらいに面白いですねえ。それは僕がSFを好きだからかもしれないですが、本書に出てくるロボットは言ってしまえば「SFよりもSFらしい」。『今では当社の製品のほうがSFの先を行くようになりつつある』というロボット開発業者の言葉が本書には出てきますが、いやはや……。
たとえば一番オーソドックスなのは、プレデターという無人飛行機。基本は偵察・監視用で、敵地上空を飛行して情報を集めるように作られたがのちに攻撃能力、ミサイルが搭載されるようになり、その索敵能力によって多くのアメリカ兵の命を救い多くの敵を殺した。
プレデターのパイロットはアメリカの自宅で起き、基地に出勤し、アフガンのテロ拠点を攻撃し、イラクを偵察し、帰宅して家族と食事をとる。ロボットは以上のような例からみてもわかるように、「戦争」そのものを変えつつある。戦争から何が不要かを突き詰めて行った結果、ついに辿り着いた答えが、その戦争を起こしているとうの人間だと言う話で、これ以上の笑い話はなかなか見つからないだろう。
他のロボットの例をあげると、REDOWLと呼ばれるものがある。レーザーと音響探知を使い、ロボットと共に行動している部隊を狙撃、攻撃してくる敵がいれば見つけ出してただちに赤外線レーザーで補足する。
衛生兵の役割を担うロボットはブラッドハウンドだ。これは兵士が負傷すると警報スイッチが切れて、それを合図にロボットが自力で負傷者を探し出し、ロボットを操作する人間が映像リンク経由でモルヒネから聴診器、訪台、解毒剤、様々な医療物資を使用することができる。
ロボットが戦争で多数使われるようになると、人命は助かる。それはもちろん最初に浮かぶいい面だろうけれど、世の中良いことばかりで回っている訳ではない。悪い面も当然ある。戦争が起こっているということが、画面の向こう側、誰もしなない世界のことになった時にそれは戦争娯楽化し、森博嗣が『スカイ・クロラ』で書いた、「ショーとしての戦争」が現実化する恐れがある。
自分や友人、家族が巻き込まれるかもしれないから戦争に対して真剣な討議を行う。もし誰も死なないとなったら、これ程までにイラク戦争に反対の声が上がったかどうか怪しい。自分たちとは関係ない、どこか遠くの事として扱われる戦争が、倫理的に正しいのかと言うと疑問が残る。
別の問題もある。その問題は、米海軍大佐のこの言葉に集約されているだろう。「いつかは必ず、何かまずいことが起きる。そうなったら、誰が責任を取るんだ? プログラマーか、とびきり頭のいいやつか?」*2ロボットによる事件はこれから先、ロボットが増えてくれば必ず起こる。その際に問題になるのが「責任の所在」だ。
現在自律型ロボットを殺傷力のある兵器で武装していいのかという問題について、法律は沈黙している。たとえば先程例に出しREDOWLは部隊を狙撃してきたやつを赤外線で補足するわけだが、そんなことせずに最初から機銃を相手に合わせて撃ち返せばよい。しかしその時、誤射が起こってしまったらどうするのか。
法律の問題から倫理観の問題まで、さらには変わっていくのはロボットだけではなく、人間も同じかもしれない。サイボーグというとSFでえぞらごとのように聞こえるけれど、技術がここまで進歩してくると現実問題として考えなければなるまい。ケビン・ウォーリックは英国の大学の研究者で、体内に技術的に装置を埋め込んで世界で初めてコンピュータと自分の身体を直接接続した。
総括すると変化の時代だ、ということになるだろう。あまりにも色々なことが変わりすぎて、考えなければいけないことは山のようにある。いやーしかし僕は幸せです。本当にこの時代に生まれて良かった。未来に生まれれば生まれるほど良かったと思うけど、とりあえず現代というのは非常に面白いですね。先に何が起こるのかまったくわからない。
是非オススメです。以下目次
目次
序文 なぜロボットと戦争の本なのか 戦争! なんのために?/「未来はこれまでとは違う」/未来と戦争のパラドックス/変化を受け入れるべきか/出発前のアドバイス第1部 私たちが生み出している変化
1章 はじめに ロボット戦争の光景/ 床掃除も戦争もおまかせ/アイロボット流/ロボットの市場/キラー・アプリケーション/9・11以降/アメリカ本土の新たな戦士/その後
2章 ロボット略史/ 人工生命の研究/ロボット、戦争に行く/冷戦と冷え込む市場/技術手動から顧客主導へ/「スマート」爆弾の台頭/政治の風向き/「ロボットは自爆テロに対するわれわれの答えだ」/人間でないという強み/未来はバラ色
3章 ロボット入門/ ロボットって何?/インターフェース/脳にプラグイン/ロボットの自律性/機械の知能とは/強くなるAI/センサーと感度/レーザーの可能性/エネルギー源を確保する/具体化するロボットたち/ヒューマノイド/バイオボット/変身するロボット
4章 無限を超えて/ 指数関数的パワー/指数関数的世界/「特異点は近い」/特異点の衝撃/特異点はでたらめか/軍と特異点/
5章 戦場に忍び寄る影 ウォーボットの次なる波/ 来るべきウォーボット・地上変/海でも活躍/無人のトップガン/宇宙ロボット、戦争へ行く/
6章 いつも輪のなかに? ロボットの武装と自律性/ループを問い直す/なぜ自律性か/GIジョー、引退か?/チーム結成──戦闘員支援/
7章 ロボットの神 機械の創造主たち/「ユリーカ」なんていない/「GITロッキン──ノッてる政府IT、あなたは?」/斡旋も楽じゃない/防弾下着からUAVまで/戦場からのフィードバック/
8章 SFが戦争の未来を左右する/SFって何?/SFと戦争/SFの予測/夢を現実に変える/「ウィリアム・シャトナーは世界をどう変えたか」軍への売り込み/SFを通して未来を覗く/フィードバックの輪
9章 ノーというロボット工学者たち 科学と倫理のはざまで
第2部 変化がもたらすもの
10章 軍事における革命(RMA)ネットワーク中心の戦争/「すべてをひっくり返す突然の嵐」/ネットワークがすべて/RMAの信奉者/事実との摩擦/軽視された真の革命/ロボットをめぐる悲哀と危険/誤作動/ロボットにも弱点が/人間不在の混乱/迫りくる革命
11章「進歩的」戦争 ロボットでどう戦うのか/すぐれた教義の必要性//明確なビジョンはあるか/なぜ強者が負けるのか/ワイヤレス革命/戦場のロボットをめぐる攻防/非対称のおんだいに対する、非対称の解決策/ロボット母艦構想/「群れ」で戦うロボットたち/「母艦」か「群れ」か/
12章 アメリカが無人革命に敗れる? アメリカは安泰か/アジアのロボット/落ちこぼれるのはどこか/変化を嫌う文化/軍産複合体/未来を勝ち取るには/ /
13章 オープンソースの戦争/ ハイブリッド戦争/国会以外の勢力の台頭/テロリストとテクノロジー/個人による大量破壊/監視システムとAIの統合/プライバシーが犠牲に/
14章 敗者とハイテク嫌い/子ども兵、民兵、テロリスト/深刻な貧困問題/格差が紛争の火種に/戦場は都市部に/「アメリカのターミネーターVS麻薬を売り、連続殺人を犯すゲリラ」/機械に対する怒り/新ラッダイトの台頭/
15章 ウォーボットの心理学 ファースト・コンタクト/「不気味の谷」──快感と不快感の境界/ロボットの発するメッセージ/文化的側面/心理抜きの戦争の時代へ/ /
16章 ユーチューブ戦争 一般市民と無人戦争/ 傍観者と化す市民/戦場の映像をダウンロード/指導者への影響/「リスクなき戦争」は本当か/
17章 戦争体験も戦争も変わる/ ゴーイング・トゥー・ウォー?/チャットルームにおける部隊の団結/ロボットと兵士の絆/
18章 指揮系統 新技術が統率に及ぼす影響/ 内地での戦争/戦術的将官の登場/デジタルな指揮/将軍バージョン2.0/
19章 誰を参戦させるか UAVパイロットの訓練/テレビゲームで培ったスキル/年長者も再び戦場へ/民間軍事会社/ロボットの人工四肢/人間を増強する/戦争のルールが変わる/サイボーグへ
20章 デジタル時代の戦時国際法をめぐって/ 無人システムが生む法的混乱/無人システムと人権/戦闘をプレーバック/非人間的になる戦争/人間不在の「誤爆」/機械への権限委譲/ロボットの権利/「軍の法律問題における革命」/国際的な議論を/
21章 ロボットの反乱? ロボットの倫理をめぐって/ ロボット恐怖症/ロボットが人間の主人になる日/倫理的ジレンマ/ロボット開発放棄賛成派/倫理の隙間/暴走を防ぐ耐えに/
22章 結論 ロボットと人間二重性/ロボットをめぐる期待と不安/フィナグルの法則/創造性をめぐる懸念/

- 作者: P・W・シンガー,小林由香利
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2010/07/28
- メディア: 単行本
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