基本読書

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神様の伴走者 手塚番13+2

手塚番だった13人+手塚治虫に非常に近しかった人間2人へのインタビュー集。

漫画の神様と呼ばれる手塚治虫の編集者は、「手塚番」と呼ばれていたそうです。なぜ「番」などと呼ばれるのかと言えば、通常考えられないほど大量の雑誌に連載を持っていた手塚治虫から原稿を取り上げる為に、一週間から十日間の徹夜も辞さずに貼りつき続けるその仕事の内容からきています。

手塚治虫に張り付いて、しかもほんの数分でもい眠りなんかしようものならすぐに他の編集者が自分の原稿を書かせたり、いなかったりい眠りするのをいいことに手塚治虫がその雑誌の原稿を書くのをやめたりしてしまったので、手塚番も必死だったようです

僕はぶっちゃけ、嫌いですよ。手塚番の話なんて。何日も徹夜して、他の編集者と争って、手塚治虫を監禁したり、一瞬でも居眠りしたら原稿がもらえないから三日も四日も徹夜するなんて、しかも手塚番に就任したら仕事は基本的に手塚治虫から原稿をとってくるだけ、そんなもんを美談のように語るなんて馬鹿げていると思う。

でも、美談でこそないかもしれないけど、その変わり「熱量」がこの時代の編集者にはあるんですよね。だからこそ僕は手塚治虫時代の話を、見つけるたびに知りたくなってしまうのですが。手塚治虫以前には、今の漫画にあるような週刊ストーリー漫画の基礎が、まったくないんですよ。だけど何もノウハウがなく、洗練されていないからこそ、理屈に合わない無茶な徹夜や、無意味な泣き脅し、監禁、原稿が間に合わない怒号、ページが突然減ってあと二時間で何かでページを埋めなければいけない、といった時の喧騒がある。

そんな喧騒から生まれてくるものもあるわけで、たとえば平時だったら絶対に出てこないような漫画家や編集者でも、仕事を得ることが出来る。戦争は一兵卒が出世する一番のチャンスだ、とはいいますが、手塚治虫が出てきた時代っていうのは、まさに漫画界の戦争が起こっていた時なんでしょうね。だからこそ、編集者にも、漫画家にも個性的な人間が数多く出てきます。そんなエピソードが本書には溢れていて、時代を切り取ったような感動を覚えました。

神様の伴走者 手塚番13+2

神様の伴走者 手塚番13+2