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仕事道楽―スタジオジブリの現場

これは大変おもしろかった! お風呂で読み始めたら面白すぎて読み終えるまで風呂から出られず。スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫が語るジブリ、というか基本は宮崎駿と高畑勤のエピソード。このエピソードがどれもこれもぶっ飛んでいて良い面白さ。そして凄いのはプロデューサーたる鈴木敏夫自身。

まず凄いのは鈴木敏夫自身ですよ。鈴木敏夫宮崎駿が始めて出会ったのはちょうど『カリオストロの城』を作成した時期。取材に訪れた鈴木敏夫に対して、「取材を受けたくない」と一言言ってあとはもう何も言わない。それではどうしたのかというと、宮崎駿が仕事をしている横でずっと座り続けた。

「邪魔だろ!!」と思うのですが、宮崎駿の仕事パターンにのっとって、午前二時に帰って朝九時にまた座りにいく。その作業を一週間近く続けたところでやっと、宮崎駿が絵コンテをみせて、話の相談をしたそうです。なんか人に慣れていない猿かなんかを辛抱強く世話して仲良くなった飼育係みたいなエピソードですが、スゴイですね。

もっと凄いのが、鈴木敏夫宮崎駿と高畑勤という二大巨人に対して、遅れをとりたくない、教養を共有したいとして取った行動です。当然二人とも、映画製作に限らず、かなり多くの知識を持っている訳です。そんな二人に対抗する為に何をするのかというと「ノートを取る」。それもただのノートじゃない、二人が言ったことを全部ノートに書き留めるのです。

しゃべる口調、しゃべり方、全てまとめて、別れた後喫茶店にいってメモをまとめる。家に帰って、もう一回別のノートに書く。計3回も、書きなおすわけでここまでいくと狂気さえ感じます。そういった狂気じみた経験から出てきたのが、この言葉。『「へえ、なるほど」をくりかえす人っているでしょう。それではダメだと思う。相手の事を勉強していれば、違う言い方になるはずだ。*1

宮崎駿に関しても凄まじいエピソードがある。ナウシカを映画にする時のお話。最初、映画を作ろうと徳間書店社長にアイデアを持っていったら、「原作がないから」ダメだという。そのことを宮崎駿に伝えると、「じゃあ原作を描いちゃおう」ということで風の谷のナウシカ漫画版がスタートする。

しかしその最中に悩むんですね、宮崎駿が。「映画企画が前提にあって漫画を書くのは、漫画に対して失礼だ。」と。しかし周りはみんな映画にしたいわけで、どうにかこうにか宮崎駿を説得しようとする。その時に宮崎駿が出した、ナウシカを映画にする条件というのが、「高畑勤にプロデューサーをやってもらうこと」

そこで鈴木敏夫が高畑勤にプロデューサーをやってもらえないか、と話を持ちかけに行くと、決して首を縦に振らない。二週間も通って出てきたのが、大学ノート一冊分に描きこまれた「自分がプロデューサーに向いていない理由」これにはさすがの鈴木敏夫も嫌になってしまい、宮崎駿に「どうしても高畑さんがプロデューサーにならなければいけないんですか?」とたずねた。

ここから先は引用させてくだせえ。

彼は黙っている。そして「鈴木さん、お酒を飲みに行こう」と言いだしました。ぼくはお酒が飲めません。それは宮さんは十分知っているし、宮さんもふだんは酒場に脚を踏み入れない人です。それなのにそう言う。ぼくも黙ってつきあいました。
飲み屋に行ったら、宮さん、日本酒をガブ飲みするんですよね。ぼくはもうびっくりしました。それまでぼくが見たことのない宮崎駿です。それで酔っ払ったんでしょう、気がついたら泣いているんです。涙が止まんないんですよ。ぼくも困っちゃってね、言葉のかけようがなくて。黙ったまま、とにかく浴びるように飲んでいる。そしてポツンと言ったんです。「おれは」と言い出すから、何を言うかと思ったら、「高畑勲に自分の全青春を捧げた。何も返してもらっていない」。*2

凄い特殊な人間関係ですよね。この後鈴木敏夫は再度高畑勲のところに行き、自身生涯で一度だけという(高畑勲の前では)大きい声で「宮さんがなってほしいと言っているんですよ、宮さんがここまでほしいと言っているんですよ。友人が困っているのに、あなたは力を貸さないんですか」と説得したそうな。そうしたら「はあ、すいません。わかりました」といって受け入れてくれた。

今まで僕はジブリ作品を多数見ていながら、宮崎駿という一個人に対しては「気難しそうなじいさん」ぐらいの印象しかもっていなかったのですが、本書の数々のエピソードでもって(中でも上に書いたのは特に印象的な話)人間として肉付けされてきました。

同時にスタジオジブリがここまで発展してきた理由のようなものもかいま見えたのですが、ピクサーと共通するものを感じます。それが何かと言えば、「挑戦」。今までとは全く違うものを、まったく新しく、かつクォリティは限界まで高い物をという姿勢。

たとえば『もののけ姫』は、今まで一年ずつ映画を作ってきたペースを二年に引きのばし、なおかつ宮崎駿の十八番であった「空を飛ぶ」というモチーフを完全に排除した作品でした。アニメを作る際の費用の8割は人件費なので、一年が二年になると単純に経費は二倍かかるわけで、外れればかなりの痛手を負うのですが、ここからジブリアニメは動員数を前回の四倍の1400万人にまで伸ばしていくわけです。

「人と付き合うほど楽しい事はない」と言い切る鈴木敏夫が語るジブリの魅力的な人間達と、そしてそこから生み出される数々の作品の魅力、そういったものが存分に発揮された一冊でした。面白い。

仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)

仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)

*1:p.29

*2:p.41-42