社会心理学者の山岸俊男氏と、日本社会の研究者メアリー・C・ブリントン氏による「日本とアメリカの比較文化論」とでもいうべき対談本。注意してほしいのは、「アメリカを見習え」というわけではないと何度も訴える様子が本書には出てくる。がしかし、実際問題1.日本の問題点をあげる→2.アメリカの例を出す→3.アメリカではうまくいっているなあ! という流れに収容されてしまうので、結局「アメリカを見習え」というような論調になってしまっているのが残念だった。
本書の主張を簡単に要約してしまえば、「日本人がリスクを取らないのは、臆病だからではなく日本社会では様々なリスクがあまりに大きすぎるからである」ということです。たとえば就職。新卒を逃すともう良い就職にはつけない。就職する際には必ず年齢制限がある。一度職を逃せば再度良い条件で雇用されるのは絶望的、などなど。
一転アメリカを見てみれば、年齢制限は差別の対象であるとして就職の際に年齢は聞かれません。再就職も容易だといいます。その代わり、首をばんばん斬られる。少しでも成果が出なければ、リストラされ、職を探し求める羽目になります。
僕はこんなの「どっちが良いか」で語る問題ではないと思う。「どちらを選択するか」という問題でしかない。再就職が割と容易だといっても、常にリストラと競争の負担を抱え続けるのはしんどいじゃないか、と思う。もちろん「この会社をクビになったら終わりだ」「就職できなかったら終わりだ」と考え続けるのもつらい。
それなのに本書の論調の前提にあるのは「日本は変わらなければならない」という思想である。世界は今まさに変わりつつある。お互いに文化を超えてやり取りをする方法を身につけつつある。それなのに日本だけが「グローバルなビジネスに参加しないですむと思っているのか?」
これではもはや脅迫だ。「アメリカ的」なビジネスのやり方を世界中のすべての国が受け入れなければならないとは思っていないというが、グローバル化の潮流は少なからず「アメリカ的」へと変容していく流れを含んでいる。それが意味するところは「多数から一つの世界へ」という多様性が失われていく過程ではないかという気がしてならない。
同時に日本的な同調主義、集団主義をポジティブに楽観的に見る視点がまったく書かれていないのも気になった。まあ日本人は日本を語る時に常に他国と比較して、「〜〜が劣っている」という視点でしか語ることが出来ないという『日本辺境論』での内田樹先生のお話を読んだ後ならば、それも納得というところだけれども。
読んでいてなかなか面白かったけれども、気持ちの良いものでもなかった。
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