ライトノベル分野で作品を発表していた森田季節せんせーのハードカバー本。全部の作品を読んだわけではありませんが、今のところ森田季節せんせーの作品の中ではこれが一番好きですね。女の子が可愛いのが森田せんせーの良いところが、短いながらも存分につまっている一冊だと思いました。
良いところ、というのはあくまでも主観的なものですね。人が何を森田せんせーの良いところと思うのかは、よくわかりませんが、少なくとも自分からしてみれば「女の子がかわいい」「それでいて女の子と展開には毒がある」の二点が、最重要。
しかしまあ、これはある意味では二つは一緒の物なのかもしれないですね。つまりかわいい女の子を書く為には、その女の子の中には絶妙な分量の毒をもらなければならないのではないか。当たり前のお話かもしれないですけどね。
あと表紙が素晴らしいですね。伊藤計劃氏の『ハーモニー』の表紙も担当されていた人で、かなり目を見張るキャラクターと背景がとても印象的です。読み終わってみればこのイラストの人選からして「あ〜なるほどね〜」と思えるのですが、それはまた読み終わった後のお話。
お話は、「ともだち同盟」という謎の同盟を結んでいる男一人と女二人による三人の関係を軸に展開していきます。最初「僕は友達が少ないのような友達を集めるお話なのか……?」と思っていたら、全然違いました。しかし凄いですよね、男一人と女二人の友達関係というのは。
一瞬即初で三角関係に発展してしまいそうな、非情な危うさがあります。よくよく考えてみれば、この一冊はかなりどっちに転ぶかわからない微妙なゆらぎの上になりたっていたのだな、と思います。そしてその危うさこそが、本書の面白さの核だったかもなと。
まず二人の女の子のうちの千里は、「私は魔女ですよ」と公言して歩きまわっているようなキチガイ。最初は戯言としか受け取れないこの言葉も、物語が進むにつれて「ひょっとしたらほんとに魔女……?」という疑問に変わっていきます。
千里の口癖は「今、死にたいですね」といって、かなり楽しい時にそういうのですが、これもまたぐらぐらと揺れる世界を象徴しているような感じ。もうここで死んでもいいぐらいにまんぞくした! と冗談っぽく言うのはあっても、真顔で「今、死にたいですね」と言われたら、冗談とも本気とも受け取ることが出来るその曖昧さが、現実を揺さぶる。
語り手でありたった一人の男である弥刀は、幼少時から姉二人に妹のように扱われて育ったせいもあって中性的な存在でこれまた性の間をぐらぐらと揺れる。男なのに凄く女っぽい。本人もそのことをかなり悩んでいます。自分は男なのに……と。
そこに来ると今度は不思議なのが二人目の女の子、朝日で、これがまた何の変哲もない、普通の女の子、のように見える。ひょっとしたら、三人の関係を作り上げていく上でのアンカー、錨のような役割なのかもしれないなと思います。
非現実的な存在である千里と、その境界線上で揺れ動く弥刀、現実的な存在である朝日、そのような三つの軸が複雑に交差し、影響しあう物語として読むこともできるかもしれません。実際物語は複雑な三角関係の様をあらわにしていきます。
最後に、今までゆらゆらと揺れ動いていた軸が一気に決着する時が来ます。物語的にはクライマックスで、これがかなり驚くべき内容になっている。この本をネタにして読書会をやったら、結構盛り上がりそうだな、とか思いながら読んでいました。このラストは、実際に読んで確かめてほしいところ。
良質な青春小説でした。青春というものも、大人と子供のはざまでぐらぐらと揺れるものなのかもな、と最後に思います。数々の表現が素晴らしくかみ合っていると感じる、良い一冊でした。
- 作者: 森田 季節
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/26
- メディア: 単行本
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