東大版「これからの「理性」の話をしよう」とでも言った内容。
東大で行ったディスカッション形式の授業を元に、東大生の反応と分析を加えた一冊。論理学についてもエッセイ程度で触れられていて、そちらもさわり程度とは言え、大変面白かったです。勉強したくなったな。入門書としては何がよろしいんでしょうね。野矢先生の『入門論理学』とかかしらん?
まあいいや。僕も知人に東大に通っておられるお方が何人かおりますが、誰も彼も非常に凄く頭が良くて(頭が良いというまとめ方に色々違和感はあるが)、彼ら彼女らの自然発生的に生じる議論をボケーっと聞いていてスゲェ! あるいは自分ヤベェ!(アホすぎて)と思ったのを覚えております。
逆に言えば東大生の方々と会うことさえなかったら、「ヤベェ!」とさえ思うこともなかったでしょう。胃の中の蛙、とまではいかないにしても、比較対象も周りの人間だけで、のほほんと過ごしてしまっていたのではないか。本書を書いた意図のようなものとして、著者の高橋昌一郎センセーは
実際の東大生が何を考えているのか、彼らは授業中どのように反応しているのか、先生と学生のコミュニケーションはどのようなものなのか、東大の授業の現場と東大生のイメージを思い浮かべることができるような本をいくら探しても、私には見つけられなかった!*1
と書いていますけれども、「実際の東大生」を目の当たりにして大多数の人間が抱くのは僕が思ったような「ヤベェ!」「自分と同年代、あるいははるかに年下なのにこんなに凄いとは!」「自分も、もっと色々勉強しなくては!」なのではないかと思うのです。
普段生活していて、東大に通っているわけでもなければ「東大生の凄さ」を目の当たりにすることもほとんどないわけですから、全国の大学生たちの熱意、闘志、危機感を燃え上がらせる為の起爆剤として、「実際の東大生」を書くのは意義深いよなぁ、と思いました。
もちろん誰もが憧れ勉強に邁進し本を読みまくり議論も達者な完全無欠な東大生を書いているわけでもないところが興味深いわけです。受験で疲れきってもう勉強したくないと出来るだけ単位がとりやすい科目を選んだり。
せっかく大学生なのだからハジケようとして広場でダンスサークルがストリート・ダンスを踊ろうとしても「NHKがどんなにがんばったところで予定調和の笑いしか生み出せないのと同じ*2」イタさが出てしまったりするという(NHKを僕は観ないから分からないけど。)
すでに付き合っている彼女がいる男が、彼女の友達に恋してしまったらどうする? などという質問から始まるディスカッションや、紙に一万円と書いた人間と千円と書いた人間の比率が2:8になったら実際にその金額をプレゼントしようという「実験」などなど、非常に面白いのですが一番僕がグっと来たのは第一〇回講義「理性」と「神秘」
理性主義者であるファインマンが亡くなってしまった妻に宛てた手紙を一人で何度も読んでいたという、「非理性的な行動」や、はやぶさが帰還する際にもう論理的、技術的に考えてもどうしようもなくなり「神頼みを精神的な支えにしていた」という事例を紹介していて、ともすれば理屈がちになりがちな東大生に対しての戒めともとれる授業です。
この章の最後に書かれている、高橋昌一郎せんせーに対して書かれた推薦状の言葉が、イカすのでこれを引用して終了します。僕もこうなりたいものです。
私がアメリカから日本に戻ることになったとき、「ある教授が推薦状に「He is a cool logician with a warm heart」と書いてくださったことがある。私もクラスの東大生諸君に「a cool scientist with a warm heart」になっていただきたいと願っている。」*3
- 作者: 高橋昌一郎
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