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競争と公平感―市場経済の本当のメリット

「貧富の格差が生じるとしても、自由な市場経済で多くの人々はより良くなる」という考え方に賛成かどうかを各国で調査したところ計12カ国のうち日本の賛成率は最も低い49%だった。ロシアが53%でありフランスが56、アメリカ中国韓国などは軒並み70%以上である。

同時に「自立できない非常に貧しい人たちの面倒をみるのは国の責任である」という考え方への賛成も日本が一番低く、59%しかない。直近の数値がアメリカの70%だけれども、アメリカは国に守ってもらう思想が弱い傾向があるにも関わらずの結果だ。

市場競争も嫌い・大きな政府による再分配政策も嫌いという割とどうしようもない結果で、とても不思議な感じ。『ネット評判社会』では日本人の今までの組織運営のやり方は自由な離脱を禁止することによる相互監視社会的な「競争も上からのルール」も必要としない形態をとっていたこともあるかもしれない。

日本にいると競争が人の心を追いたてて貧しくするという言質はよく聞くけれど、たしかにそういうデメリットはある。能力の有無により格差も発生する。同時にメリット(最も効率的にさまざまな商品が人々の間に配分され、国全体が豊かになる。結果下位の人もその恩恵にあずかる)も巨大なのでこれだけ資本主義が蔓延しているわけであるけれども、日本人はそちらをあまり見ないようだ。

しかしなぜ日本人は市場競争が嫌いなのだろう。本書によれば資本主義への支持と強く創刊するのは、運やコネではなく勤勉が成功につながるという価値観や汚職が無いという認識だと言う。驚くべきことに、日本において勤勉が美徳の日本人的なイメージとは裏腹に「人生での成功を決めるのは運やコネが大事と考える人の比率」はかなり低い。1990年には25.2%だった「運・コネ重視」が2005年には41%にもなってしまっている。

著者は就職氷河期などの「世代によって就職率に差がありすぎる」ことが「運が重要である」という認識に繋がっていっているのではないかというが、それだけではないにしろ一因としては納得できる。現に世代ごとの上記の質問に対する答えの比率を見てみると、氷河期世代の方が運・コネを重視する結果になっているし。

面白いのが、「公平感」についてのお話。「所得は何で決まるべきか?」という価値観についてのアンケートを日米で行った結果、日米共に「選択や努力」で所得が決まるべきだと考えている人が一番多かった。一方でアメリカでは学歴や才能で所得が決まるべきだと考えている人の比率が50%なのに対して、日本では10〜15%しかない。

これが何を意味しているかというと、日本人はアメリカ人よりも才能や学歴を認めない傾向にある。日本人は選択や努力で所得が決まるべきであって、生まれ持った運、才能といった不確定な要因で所得格差が発生することを嫌うのだ。先程のアンケート結果では人生での成功を決めるのは運やコネであると考える人の比率が年々高まっていたことを思い出してほしい。

つまるところ「運で所得が決まるべきではない」という思想を多くの人が持っているのに「実際は運で決まっている」と考える人が多いゆえに「格差社会サイアク!!」と叫ぶ、と言っているのである。アメリカでは運や才能による格差を認める傾向にあるのでこのような反発が起きにくいと考えられる。

「公平感」はそれぞれの価値観で決まる、というのが面白いポイントだった。他は主に日本の経済政策へのツッコミであって網羅的にツッコミを入れてくれるので面白い。ただ後半部の日本の不況の理由はなぜかの分析のあたりはちょっと頷けなかった。ただ失敗しやすい社会を目指すと言う方向性なんかは納得。

けっこうおもしろかった。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

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