内田樹せんせーのコメントが帯にあったのと、『インフルエンザの予防接種、効かないとかいう話も聞くけど、実際どうなんだろう』と疑問に思っていたので読んでみました。結論から言えば、「必ず効く」わけではないが「確実な効果」はあるということです。たとえるならば、車でシートベルトをしていれば必ず事故をしたときに助かるわけではないですが、「助かる確率」はあがる、そういうものだと考えてよろしいかと。
もちろんこれはインフルエンザに限った話ではなく、全てのワクチンに言える話でしょう。必ず効くわけではなく、中には副作用が出てしまう人もいるでしょう。ワクチンは本質的に「身体にある物質を注射で身体に打ち込む」というしごく不自然な行為であって、『医療の本質は、この「リスクを超える利益を得るためのトレードオフ」の行為である*1』のです。
『医療の世界に基本的に100点満点はないのです*2』という言葉が、読んでいて非常に重く感じられました。絶対安全なワクチンなど存在しません。たとえば1000に1人に副作用が出るワクチンでも、1万人に打てばそれだけで10人は副作用が出てしまうことになります。薬を飲むのも同様ですし、外科手術のような身体を切り刻む行為なんかはリスクを大前提としているのです。
しかし当然のことながらその一方でリスクを受け入れれば助かる人は大勢いるのです。そういった事実を見ようとせずにワクチンは効かない、副作用が出るとマズイ、医者が悪いと思い込んでしまうのは危険だ、ということでしょう。物事の一側面しか見ていない噂が広まると、本当に必要な人にまで必要な物が届かなくなってしまう。
僕も本書を読むまでは「なんかよくわかんないけどワクチン危なそうだからやめておこ」とか考えていましたからね。自分のこと棚に上げて言うと現状ワクチンに限らず医療現場に起きている1つの(多くの)問題は「医療のことがみんなよくわかっていない」から起こっているんじゃないかな、と。
無知なままに「副作用が出るからやーめた」「医者が悪い」などといって思考停止しあまつさえ医者を攻撃し、「ワクチンも医者もいなくなって」しまった時に本当に困るのが誰なのか、火を見るよりも明らかなのに多くの人はそれを知らないのです。これは医療の現場に関わらず怖いことだな、と思いました。
こっからは余談ですけれども、パンデミックを前にしてワクチン接種を国民に推奨したり推奨しなかったりを決める人達の話を読んでいて、その心情を想像してぶるぶると震えたりしていました。ワクチンって難しいんだな〜〜。1976年、アメリカニュージャージー州の陸軍訓練センターで新型インフルエンザが発生し、死者が1人出ました。しかも大流行を示唆するウィルスで、別の訓練生3人からもウィルスが見つかる事態に。1918年の4000万人以上の命を奪った「スペイン風邪」のことが専門家の頭によぎり、戦慄したことでしょう。。
それにしても4000万人て! 日本人口が3分の1、消滅するぐらいの人数ですよ。第一次世界大戦の死者が1000万人らしいのでそれの4倍……、このような事例があると、冷静な対応が出来るかどうかは怪しいです。
この時の対応策は幾つかあって、1.もしパンデミックが来た時に備えて、ワクチンを全国民に打つ。2.ワクチンを摂取してもまったくパンデミックが起こらなかったら税金の無駄遣いとして叩かれるわ副作用が多くの人に起き、人命が失われる。
どっちに転んでもいいとは言えません。このようなジレンマに立ち向かわねばならなかった当時の人達の気持ちを考えると、ゾっとします。結局どのような選択肢を選んでどうなったかまでは書きませんので読んで確かめてください。