基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

生き残る判断 生き残れない行動

テロや地震などの災害等、人の生死がかかった瞬間に、生き残れる人達はどんな能力を持っていて、生き残れなかった人は「何故」生き残ることができなかったのかを多くの被災者、テロ被害者へのインタビューを通じて考えていく一冊。生の体験者たちの声はナマナマしく、生き残る為には読むといいと思う。「自分には関係ない」と思っていることこそが、「生き残れない判断」へと繋がる最初の一歩なのだから。

災害の最中に真っ先に起こること、それはまずもって「パニック」であろうと考えるところだけれども実際それは正しくない、と著者は言う。9・11、飛行機が突っ込んだ世界貿易センターの中で、最初に人々が取った行動は何よりもまず「落ち着いていて行動していた」のだという。冷静に、自分達の荷物をかき集め、何が起こったのだろうと話し合い、避難を始めたり始めなかったりした。

そして何より、起こった事を否認していた。これが大多数の人に起こる第一段階の行動だという。「パイロットが途中で心臓発作でも起こして突っ込んだのだ」あるいは「何が何だかよくわからないけれども、まあ大丈夫だろう」。多くの人はテロや災害のようなことが自分の身に起こるとは考えずに、訓練か何かのようにゆっくりと行動していた。そのタイムラグは生死を分けることになる。

否認が終わった後に来る第二段階は、「思考」だ。現状を受け入れ始め、自分の身に何が起こったかを考え始めた時、恐怖にとらわれ、パニックに陥り、その結果さらなる悲劇が生まれる。出口が詰まったり、押し合って人が死んだり、あるいは麻痺状態になって一歩も動けなくなったりする。その結果当然のことながら生存率は大きく下がることになる。

一方で、英雄的行為に走る人達もいる。誰もが飛びこむのを尻込みする氷の川の中へ、着の身着のままで飛び込んだ男、世界貿易センタービルで自分の身をかえりみずに死ぬまで人を救出しようと奮闘し続けた男、そうした人達に対して「なぜそのような行動をとったのか」と訊く時、きまって「そうせざるをえなかったから」「わたしはたまたまどこかに居合わせて何かをした男にすぎません」と答える。

この章についての分析には特に納得できるわけではないけれども、「死に直面しながらもなお、他人のことを助けようとするのはなぜか」というのは、興味深いテーマだと思う。

はてさて、恐怖に、麻痺に、否認に、効果的な方法とは何だろうか。正直、ありとあらゆる状況が想定されるテロや災害に対して、完璧な方法など存在しない。だからこそ答えは非常に堅実的で、特に面白みがないものになる。だけれども往々にしてそういった面白味のない日々の積み重ねが、最終的には役に立つものだ。

一番重要なのは「適切な事前の計画と準備をすること」。世界貿易センタービルでは、どこに階段があるのかがわからなく右往左往した人たちが大勢いたという。僕も中高生ぐらいだった頃は批難訓練が嫌で嫌で仕方が無かったけれど、あの繰り返しの行動は「恐怖」を抑制する為に必要なことだった、と今なら考えられる。

読んで良かった、と思える本だった。

生き残る判断 生き残れない行動

生き残る判断 生き残れない行動