基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F>

タイトルそのままの内容。〇年代ベスト短編集。二冊出ていて、いちおうこちらが二冊目。『ぼくの、マシン』が一冊目だが、既読率が高すぎたので先にこちらを読む。内容的には少し不思議系のSFが集められている。短編自体の優劣を競うというよりかは、作家の見本市のような感覚で楽しむと良いと思った。

書き手は以下の通り。恩田陸 三崎亜紀 乙一 古橋秀之 森岡浩之 山本弘 冲方丁 石黒達昌 津原泰水 北野勇作 小林泰三 牧野修

読んで良かったと思ったのが石黒達昌さんという人の作品が読めたこと。こんなSFを書く人がいるのか、と読んでいて驚いた。あと半分ぐらいは読んだことのある短編だったけれども、昔読んだ時とは印象が違っている物もあってそういう意味でも楽しめた。以下からは一応作品ごとの感想を書いていく。

夕飯は七時/恩田陸

知らない単語を聞いて、想像してしまうとそれが実体化してしまう兄妹の話。人と話している時にしょっちゅう飛んでもないものが出てきてしまうのだが、それをバレないように隠そうと必死になっているのがとても愉快だった。筒井康隆の短編に近いかな、と思ったけどどうだろうか。

彼女の痕跡展/三崎亜記

著者いわく記憶のあいまいさを突き詰めた短編で、突然恋人がいなくなった喪失感だけを味わうことから始まる。読んでいると真面目に「なぜ喪失感だけがあるんだろう」「記憶とは何なのだろう」と考えて行くが、それよりも僕は「恋人がいないのに恋人がいなくなった喪失感だけが残るとかマジ可哀想だな」と思いながら読んでいた。何一ついい事が無いよ! かわいそう!

陽だまりの詩/乙一

語り手はロボットで死期を間近にした一人の男に「埋葬する為に」起動させられたところから二人っきりの生活が始まる。既読。最初に読んだ時はオチ、展開の妙にびっくりして嵌りこんだ記憶があるけれども、今読んでもやっぱりシンプルで感動する。最初の読んだ時は素直に大絶賛したものだけれども、今読むとなんだかロボットが人間臭すぎてこんなのロボットじゃねえよ! と思ったりする。

ある日、爆弾が落ちてきて/古橋秀之

これも既読。空から爆発したら関東が吹き飛ぶぐらいの爆弾娘が降ってきて、どきどきすると爆弾のタイマーが進むのでその為に男の子とデートする話。男の子がやけに爆弾について詳しかったり物分かりが異常に良かったりして面白いが、作品としてもかなり印象に残る。全てが綺麗さっぱり消えてしまえばいいというある意味清々しい破滅願望のようなものが、どこか青春にはつきものなのかもしれないと思いながら読んでいた。

光の王/森岡浩之

これも既読。先週の水曜日の記憶が誰にもないのに、普通に生活している中一人の男がそのことに気が付いてしまう。この短編はかなり好きなのだけど、うまく説明できない。世界を丸ごとどうにかしてしまうような話が好きなのかもしれない。あんまり関係ないかもしれない。

闇が落ちる前に、もう一度/山本弘

傾向としては光の王と似ている。世界全体が何日か前に作られたとしたらどうするか、というような話。話の展開にどうしようもない違和感を持ってしまって素直に楽しめなかった。

マルドゥック・スクランブル"−200"/冲方丁

マルドゥック・スクランブルのボイルドとウフコックがコンビを組んでいた時代の話を書いた短編。名前からしても対照的な二人だけれど、それがまたコンビとして良くバランスをとっているな、と思う。ひねりも効いているし、テーマ的にも面白い。

冬至草/石黒達昌

こんな書き手がいたのか! と驚いた。著者は東大医学部を出て現在医師として働いているらしいが、医師らしいといっていいのかわからないけれども科学小説になっている。放射能を帯びた架空の草である「冬至草」にまつわるお話。凄いのは架空の草である「冬至草」に関する情報のち密さで、ほんとに架空の話なのか? と疑問に思うほど情報が書きこまれている。ただ恐ろしく文章が真面目で読みにくいのがつらかった。

延長コード/津原泰水

娘が死んでしまい、死んでしまった家を訪ねた父親が形見に大量の延長コードをもらう話(ひでえ要約だ)なぜかあまり津原泰水とは相性がよくないようで、これも読んでも何が面白いのかよくわからなかった。ただ大人の男が二人、延長コードを延々と繋げていく場面があって、そこだけは真面目に考えると笑ってしまう。

第二箱船荘の悲劇/北野勇作

第二箱船荘という、常に増改築が繰り返され帰るたびに部屋の位置が変わっている安アパートの話。徹底してシュールな説明が続くが、まったく笑えなかった。まあこの辺は個人の感覚か。

予め予定されている明日/小林泰三

既読。初めて読んだ時は圧倒されたが、今読んでも圧倒された。なんというか、容赦が無いし、発想が奇想すぎる。まっさらな状態で是非読んでもらいたい。

逃げゆく物語の話/牧野修

テキスト情報を人型に作ると動き出すので本がみんな人型になった世界の話で表現規制が行われて物語が倫理協会から逃げて行く話。かなりタイムリー。人型をとった物語が逃げて行く姿がシュール。長編になったらおもしろそうだと思った。個々人の性格が物語の内容に左右されたら面白いな、と思ったけどこの短編では特にそういうこともなさそう? 個人的にはカラマーゾフの兄弟が人型になったらどんな性格になるのかとか興味がある。円城塔のSREが人型になったら……ちょっとおもしろいな!

そんな感じで、結構書くの疲れたな……。