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バットマンになる! スーパーヒーローの運動生理学

『バッドマンが私たちの集合的想像力にこれほど力をもつのは、バットマンがただの人間なのに、それでも本物のスーパーヒーローとしてふるまうからだ』

最近(というほどでもないが)公開された映画『ダークナイト』で初めてバットマンに触れた僕は、「バットマンって生身の人間だったのか!」と驚いたわけですが、バットマンというヒーローの魅力はまさにその「ただの人間である」ところにあるのだなと思います。

バットマンが悪を倒す為に手に入れた力は、放射能を浴びたからでも特別な血筋だったからでも蜘蛛に刺されたからでもなく、ただ不断の鍛錬を積み重ねた上で、スーパーヒーローに成りえたのだ、と考えるのはそれを見ている方には一抹の希望を与えるでしょう。私たちはバットマンに自分の可能性を見るのかもしれません。同様に敵役であるジョーカーの側に落ちてしまうこともあることを示唆しているのかもしれませんが。

で、この『バットマンになる!』ですが、ひと言で言ってしまえば「海外版空想科学大全バットマン一冊編」のような内容。はたして我々は「バットマンになる」ことは可能なのか? を追求した一冊。ただこれが非常に丁寧で、話が「そもそも細胞とは何か」「遺伝子とは何か」から始まるのが凄い。バットマンのような体を創る為に、「遺伝的要素はいったいどれぐらい必要なのか」からはいっているのです。

下においといた目次を読んでもらえればわかると思いますけれども、項目の多さが凄い! 常に夜の街を駆け回るバットマンのナイト・シフト勤務はバットマンの身体にどんな影響を与えるのか? まで分析しているので笑ってしまいました。他にも「何歳までバットマンで戦い続けられるか?」、あとはマーシャルアーツについて考察している章が特に面白かったです。

最初に「空想科学大全」と言ってしまったけれども、別に本書は「バットマンが現実的に考えて可能かどうか」を検証する本ではありません。「現実的な路線でバットマンを実行する為に必要な鍛錬・素質は何か」から「はたしてバットマンになれるのか」を判断するのが重要なのであって、「バットマンがいかに荒唐無稽か」は問題ではないのです。

たとえば127通りのマーシャルアーツを使いこなすといわれるバットマンですが、本書では「127通りもの戦い方は必要でもないし、あってもろくに1つも使いこなせない木偶の坊になるだけだ」というようなことを書いています。現実的には18世紀日本の忍者のように「三つから五つのマーシャルアーツの訓練」を受ければそれでよしとしています。

この辺がまた面白いところで、著者のE・ポール・ゼーア氏自身がマーシャルアーツを習っていて、特に空手と琉球古武術で黒帯という日本(の武道)通なんですよね。大山倍達が素手で牛を殺した話とか日本の武道家の話がよく引き合いに出てきて、読んでて面白かったです。

結論までの要約としては、僕らはバットマンになれるのだ(要・死ぬほどの鍛錬と、ある程度の遺伝的素質があれば)。

バットマンになる! スーパーヒーローの運動生理学

バットマンになる! スーパーヒーローの運動生理学

目次バットマンになる!:目次 - 「ユリイカ」「現代思想」の雑誌発行、人文諸科学の専門書の出版社「青土社」より

 【目次】

序文  ジェームズ・カカリオス 『スーパーヒーローの物理学』(2005年、ゴッサム社刊)の著者
まえがき

第1部 バットマンの素材 バットマンはどこから始まってどうなったのか
    1 バットマン 「以前」 ――ブルースはどれほどすごかったのか
       うわべでは判断できない / ブルースのような人々はみな同じか
       体型はブルース・ウェインがなれるすごさに影響するか

    2 会ってほしい人がいるの ――ブルースの一卵性双生児ボブとヒト・ゲノム
       顕微鏡を覗く / 遺伝子がバットマンを作るのか / ボブ・ウェイン

    3 生活のストレス ――ホーリー・ホルモンだ、バットマン
       ストレスを逃がす? / 生活のストレス

第2部 バットマン基礎トレーニング バットマンの技の土台となる体づくり
    4 筋力と瞬発力をつける ――高く、速く飛ぶコウモリほど虫を捕るのか
       筋肉を収縮させる / 脳がゴーサインを出す / 熱く強くなる
       バットマンが重いものを持ち上げるとどうなるか / 筋力が強い人は必ず瞬発力でも勝るか
       筋力トレーニングと瞬発力トレーニング / バットマンはどれだけ強くなれるか

    5 バットマンの骨を作る ――脆いと困るが大きければいいのか
       骨の再構築の実際 / エクササイズと骨 / どんな骨があるか
       ジョーカーのしわざ――骨が骨から盗む?

    6 バットマンの代謝 ――ダークナイトの食生活ではどんなディナーが出るか
       バットマンの食生活 / 代謝に神経質にならないこと / バッドボディの内なるせめぎあい

第3部 バットマンのトレーニング バットマンがマーシャル・アーツを習得するまで
    7 ブルース・ウェインからブルース・リーへ ――バットケーブで武術を身につける
       皮質が責任者 / バット脳がしかるべく機能しない場合 / 瞬間的反射
       古いバットマンに新しいこつを教える / それ、どこでやってる?
       どれだけやればやりすぎになるか

    8 みんなカンフーをやっていた ――バットマンがしていたのは?
       誰もがずっとカンフーをしていたわけではない / マーシャル・アーツのいろいろ
       名前が何だというのでしょう / バットマンの選択 / バットマンは忍者か

    9 バットマンの戦闘 ――殺さずにKOできるか
       余計なことは考えない / ドロシー、ここはバットケーブじゃないみたいだよ
       殺さずにKOできるか

第4部 夜はダークナイトとともに 仕事中のバットマン
    10 バットマンはぶん殴り、ぶん殴られる ――折られないで折れるものは何か
       流れに身を任せる・・・・・・エネルギーの / 板は反撃しない / 手下は何人?
       いざ、勝負 / みんな倒れる / バットマンはどこを攻めるべきか

    11 バットボディを強化する ――棒や石でバットマンの骨を折れるか
       肉体改造の方法 / 皮一枚の差? / 痛くないと得るものはないか
       これは本当に役に立つか / ただの体を強化する / バットスーツは蒸し風呂か

    12 たそがれのゴッサム ――ナイト・シフトで働くということ
       夜と昼ほども違う / バットマンジェット機に乗ると / 重大な例
       バットシフト勤務 / ・・・・・・眠りにつき、そこでどんな夢を見る

第5部 バットマン玉手箱 バットマン道にありそうな落とし穴
    13 負傷と回復 ――バットマンが崩れるまでどれだけ叩かれるか
       ダークナイトの職業上の危険 / バットマンの脳に何かが激突するとどうなるか
       バットマンの脳を守る / ひずみと捻挫 / むち打ちと筋肉痛 / 回復?
       バットマンステロイド剤を使うか

    14 バット族の戦い ――バットガールバットマンに勝てるか

    15 加齢戦士 ――バットマンはバットじいさんになれるか
       認知とバットマン / 生理学と運動性能 / 老体はそうでないか

    16 バットマンの治世 ――バットマンになって、バットマンでいつづけられるか

付録 バットマンのトレーニングの道のり
表A.1 バットマンのマーシャル・アーツと身体のトレーニング史年表
訳者あとがき

参考文献
 本書で取り上げたDCコミックスと単行本
 本書で取り上げた映画とテレビ番組
 書籍及び雑誌論文
索引
[原題] BECOMING BATMAN : The Possibility of a Superhero

[著者] E・ポール・ゼーア(E.Paul Zehr)
リハビリに関連する運動生理学者、脳科学者。カナダのブリティッシュコロンビア州ヴィクトリア大学所属。空手と琉球古武術で黒帯。

[訳者] 松浦俊輔(まつうら・しゅんすけ)
名古屋工業大学助教授を経て翻訳家。訳書には、『ビル・ゲイツの面接試験』 『天才数学者はこう賭ける』 『プライスレス』 などパウンドストーンの翻訳のほかに、J・A・パウロス 『確率で言えば』、A・ワグナー 『パラドクスだらけの生命』(以上、青土社)ほか多数。