基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験

実際の宇宙飛行士選抜試験に密着取材したNHKの番組があったそうですが、その時の体験をもとに新書を書き下ろしてくれたようです。これがもうめちゃくちゃ面白い。読み始めたら止まらなく、一気に読み終えてしまいました。現実なのに、キャラ立ちから、各々の信念、動機、覚悟と物語よりも物語らしい10人の最終選抜試験候補者たちのお話。

「宇宙飛行士」と聞いて最初に思い浮かべるイメージは人によって異なるのでしょうけど僕の場合はカメラを向けられて無重力でふわふわ〜〜っとして楽しそうだなー! とか、月に降り立って人生が変わるような経験をするんだろうなー!! という純粋な憧れ、希望であったり、夢だったりします。

しかし実際に宇宙飛行士として宇宙に出る時のことを考えると、そんな夢や希望ばっかりではないのは当たり前のことで。いちばん僕が読んでいて、ビビってしまった当たり前の事実は「宇宙飛行士に失敗は許されない」ことでした。

考えるまでもなく当たり前の話で、一歩外に出れば人間が生きていける環境じゃない上に、ごくごく限られた、外部から物理的な支援を何一つ受けられない状況の中で全ての作業をこなさなければならない。読んでいてめちゃくちゃ印象的だったお話を一つ書いてみます。アポロ13号の話です。

1970年4月11日に打ち上げられたアポロ13号は、月面探査を使命とした宇宙船です。打ち上げは順調に行き、2日経ち、全てが順調に思えたところで船の電線ショートが原因で、酸素タンクが損傷、他の機器にまで被害が及び水も酸素も電力も供給不可能、さらに中の人間は100時間は宇宙で生きていかなければいけなかったそうです。

三人の宇宙飛行士は、電力が供給されないため0度近くまで下がった船内で、生き残るために残された資源を最大限有効活用し、自分たちで壊れた部分を補う新たな装置を作り、複雑な軌道計算、説明するのに口頭で一人あたり二時間もかかる説明を聞きながらこなし、地球への帰還を成し遂げたそうです。

この危機を象徴するような言葉が、当時の管制チームのリーダーが発していて、それはこのようなものです。

Failure is not an option.
  ──失敗に終わるというのは、我々に許された選択肢ではない。

これは恐らく任務を必ず達成しなければならない、という厳格な意味ではなく、たとえ失敗したとしてもそこから何かを得てタダの失敗で終わらせないというような意味もあるのでしょう。この時のアポロ13号の任務は「成功した失敗」と呼ばれたそうです。

そうはいっても人間なんだから失敗するのは当たり前で、問題は「どこまで失敗を少なくできるか」あるいは「いかにして失敗から立ち直るか」と言えます。その力を見るのが、宇宙飛行士選抜試験であるとも読めます。「ストレス環境下でも適切な判断を下す」ことが出来る人間を選抜する為の、閉鎖環境下での一週間の生活もその一環です。

選抜をくぐりぬけた10人の候補生が閉鎖環境下でディスカッションや課題解決などがみっちり隙間なくタイムスケジュールに埋め込まれた共同生活を送るのですが、これがまた凄い。10人の個性もすごい(自衛隊海上保安庁出身3人、ジェット機パイロット二人、産婦人科医、技師などなど)ですが試験の内容も……。

特に詳しくは書きませんけど、かなりシビアです。15分ごとに新しいミッションが知らされ、しかもそのことについて事前に知らされるわけではなく、常に生活は誰かがポイントをつける為に監視しています。寝ている時に脳波を測られ、リラックスしているかなどまでチェックされて、素を出さないのは難しいでしょう。

でもそんな状況を乗り越えていくからこそ、「物語的」であるのかもしれませんね。だいたいその人たちは、みんな年収何千万ともらっている人たちなのに、宇宙飛行士になると月収三十六万ぐらいになってしまうんですって。命を賭けるには安すぎる気もしますが、どうなんでしょう。需要と供給的に考えて安くなるのかもしれません。

しかも宇宙飛行士になったらヒューストンに移り住まなければいけないわけで、しかも死亡率は高い。スペースシャトルでの死亡率は66分の1だそうです。66回に1回は死ぬギャンブルと考えれば、マジでキツイでしょう。家族まで巻き込んだ大騒動です。

それでも目指す一流のバカな夢を追うスペシャリスト達が集まっている。その点が、宇宙飛行士という人達への魅力に繋がっているのでしょう。もちろん宇宙飛行士だけでなく、その周りにいる人たち、はやぶさの時もそうでしたけど、本当に凄いのははやぶさではなくて「はやぶさを作り上げた人たち」なんですよね。

宇宙に臨む人達というのは、現代における最強の物語なのかもしれない、と思いながら読んでいました。宇宙飛行士を目指している人の中には、ヤマトとか銀河鉄道999なんかにあこがれた人がやっぱりいたけど、今の人達はどうなんだろうなぁ。「これだ!」っていう物語は、ない気もする。実在の宇宙飛行士にあこがれて宇宙を目指すのかもしれない。オススメ。

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)