ツイッターで茂木健一郎せんせーがこの二冊のうちのどちらかを褒めていたらしく、なんとなく読んでみた。どちらを褒めていたのかはわからないけれど、どちらも良書だと思う。
『英語達人塾』の方はそのまんま、過去における日本の英語達人たちから、「英語の勉強法を学ぼう」という一冊。冒頭からごく短期間で語学が修得できると考えるなんて間違っている、と言っていることからも分かる通り、ごくごく基礎的なところから、何年もかけて英語の達人を目指す為の方法が紹介されている。
目次を見れば一目瞭然だが、内容は実にシンプルであり本文を読むまでもないかもしれない。
入塾心得
音読―新渡戸稲造に学ぶ
素読―長崎通詞に学ぶ
文法解析―斎藤秀三郎に学ぶ
辞書活用法―岩崎民平に学ぶ
暗唱―幣原喜重郎と岩崎民平に学ぶ
多読―新渡戸稲造と斎藤秀三郎に学ぶ
丸暗記―西脇順三郎に学ぶ
作文―岡倉天心と西脇順三郎に学ぶ
視聴覚教材活用法〔ほか〕
音読はそのまま声に出して読むことだし、素読とは声に出して読むことを、わからなくてもいいからずっと続けることである。文法解析も要は丹念に文法を勉強しろといっているに過ぎない。面白いのは各章に英語達人たちのエピソードが挿入されているところで、「そんなバカな、真似できるはずがない」と唖然としてしまうものが多い。
たとえば辞書活用法の章ではこのような紹介のされ方をしている。
僕は、語学力は辞書を引く回数に比例して伸びるものだと信じている。少なくとも読解力に関して言えば、辞書をこまめに引くか引かないかが決定的な差となることは間違いない。もちろん、これは達人たちの学習法を見れば明らかである。
たとえば、ドイツ語学の世界では誰もが知っている関口存男というドイツ語達人がいる。彼は14歳のとき独学で勉強を始めるのだが、そのときの学習法がすごい。いきなり洋書屋に行き、ドイツ語訳の分厚い『罪と罰』を買ってきて、わけもわからずに辞書を引きながら読みはじめたのだと言う。
この後は「一行や二行を十回もに十回も読み返して辞書を引きまくりながら限界まで考え続けたらおしまいの頃にはわかりだした!」と続く。この当時関口殿は14歳だったそうだが、14歳の頃の僕が何をしていたかと考えると何も思い出せない。ひたすらパーティーゲーム(ニンテンドー64)に興じていたような気がする。14歳の頃の自分にドストエフスキーの罪と罰ドイツ語版を頑張って訳し通せ、な? と言ったらマリオカートでボコボコにされると思う。
どの章にも、このように達人たちの驚愕的なエピソードがわらわらと襲ってきて、読んでいると「おお、いいじゃんいいじゃん、できるかもしれないじゃん」と調子にのりそうになるが多分それはノセられているだけなのだろう。もっとも、方法論としてそれがまったく無価値なのか? といえばそうではない。
音読も素読も多読も文法解析も至極まっとうな勉強法であり、続ければ効果が出るのに疑いは抱かない。ただ僕らは達人ほど極端に出来ないと言うだけの話だ。新渡戸稲造は札幌農学校に在学していたとき図書館に在る本は端から端まで全部読んで、『衣服哲学』という本は30回も読んだ(ちなみにほとんど全部英書だったらしい。ひええ)らしいが、僕らはその1000分の1でも出来れば恩の字といったところだろう。
ただ考えてみてほしいのだが新渡戸稲造の1000分の1も達成できるならばそれはかなり凄いのではなかろうか、と僕は思う。僕たちは誰かの真似をしたときに、その人の事を100パーセントコピーできるわけではない。だからコピーをする意味はないのかといえばそんなことはない。めがっさ偉大な人間をコピーすれば、ほんの数パーセントしかうまくコピーできなかったとしても、充分なのではなかろうか。
『英語達人列伝』の方に話をうつそう。こちらは『英語達人塾』から英語達人たちのエピソードに焦点をうつしたものといえる。というかこちらの方が出版された時系列的には早いので、元々あった達人たちのエピソードから学習法を抜きだしたのが『英語達人塾』なのだと言える。
こちらは「睡魔が来るたびに水をかぶって勉強した」とか「図書館にある英語の本を全部読んでブリタニカ百科事典を二度読んだ(英語で)」などといった本物のクレイジーな天才たちの話で、参考にできるような部分はとてもないのだが、達人たちのエピソードはどれもぶっ飛んでいて面白く、「別に英語勉強したいわけじゃない」人に特にオススメできる。
達人や天才の話がわくわくするのはそれが読んたり聞いている人の頭の中にある人間の可能性を広げてくれるからだと思う。

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