基本読書

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巨大翼竜は飛べたのか−スケールと行動の動物学

わくわくしながら読んだ。たいへん面白いと思います。最近だと『辺境生物探訪記 生命の本質を求めて』なんかも凄く面白かった。やっぱり生物を相手に各地へ飛んでいく人たちは(南極や無人島などに本書の著者も行く)環境がすぐに変わるし、予測不可能なことが多く起こるので、その分思考は柔軟で何より楽しそうだと感じる。「生物」を相手にするのが楽しさの根源なのか、はたまた「辺境」がいいのかはまたよくわからないけど。

著者の佐藤克文さんが行っているのはデータロガーと呼ばれる小型記録装置(動物の背中にとりつけ、速度や高度などを測定することができる)を使って様々な野生動物の記録をとり、見えてくるものを探る研究である。なにぶんデータロガーを用いた研究がまだ目新しいこともあって、佐藤さんは「あれもこれもやりたくて、どうしようもない」という「研究の楽しさ」が伝わってくる。本書の醍醐味は主にそこにある。

面白いのが、海の生物が泳ぐときにだいたい同じような運行速度と、機能を保っている点。翼や尾ヒレを動かす速度が、体型と筋肉の付き方などから最適な遊泳速度が決まってくる。ペンギンもクジラも体のスケールが違えども、縦横の比などから見れば相似形に収まっているのではないかと言う(推測である)。またわかっていることとしては水生動物が潜水遊泳する際、ストローク周波数(ヒレが行って帰ってくる秒あたりの回数?)が体重のマイナス0.29乗に比例するという結果が出ている。どのどうぶつにも当てはまるとしたら大変面白いと思う。

著者の楽しさが伝わってくる点が面白いと書いたことと関係するのだけど、単純に「実験の結果」だけを淡々と論理的に書いて行くのではなく「実際に実験を行った様子」を書いてくれることが面白い。「臨場感が味わえる」とか「物語を感じる」とかそういうことかもしれない。たとえばデータロガーを回収する際に、大抵の動物は「再度捕まえて」とはなかなかいかない。戻ってくる動物は少ないからだ。なので時間がきたら自動的に切り離し、あとは水面に上がってきたところをセンサーで受信し、回収をしにいくといった手順が必要になる。

その際になかなかセンサーで受信できないということがある。近くまでいかないと反応しないこともあって、研究院生が車で一週間もセンサーを探しに旅をしにいった話や、富士山にまで登って(高いところの方が受信しやすいからだ)クジラを探しに行ったなどと言う逸話が紹介される。無人島に行った話、南極に行った話。カメラをつけたウミガメが、海の中でポリ袋を目の前にして「食うか、食わないか」とそれを見ている人たちがどきどきしながら見守る話など、どきどきが伝わってくる。

翼竜について書いている部分は最終章である第六章『巨大翼竜は飛び続けられない』だけだが、読めばその主張にも納得がいくだろうと思う。「じゃあなんであんなでかい翼がついているんだろう」と読む前は疑問に思っていたが、著者も「翼竜は飛べない」と主張したいわけではないことがわかる。最近読んだ中でもたいへん楽しんで読めた一冊。結構オススメ。

巨大翼竜は飛べたのか?スケールと行動の動物学 (平凡社新書)

巨大翼竜は飛べたのか?スケールと行動の動物学 (平凡社新書)