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マグネシウム文明論 石油に代わる新エネルギー資源

マグネシウム文明論の「文明論」の部分はいったい何が言いたいのかよくわからないが「石油に代わる新エネルギーとしてのマグネシウム」について、その実用可能性を語った一冊。これが大変面白い。というか凄い。あんまり凄すぎると「ほんとかあ?」と疑いたくなるものですが、仮に信じられなくても化学のお勉強にもなるので嬉しかった。

マグネシウムの長所の一つとして、発生する熱量が大きいことが挙げられる。石炭は30メガジュール/キログラム 石油は44メガジュール/キログラム 木材は15メガジュール/キログラム ときてマグネシウムは25メガジュール/キログラム。石炭より少し少ないぐらい。この25メガジュールとかなんやねん、というのはキロぐらむあたりで抽出できるエネルギー量のようなものだそう。

「それなら石油や石炭の方がいいじゃん」と普通考えるでしょうが、石油や石炭は今後どうしたって無くなってしまいます。石油はいくらでも出てくるんじゃないかみたいな考えもあるけれど、常識的に考えて無限の物はない以上限界はある。対してマグネシウムも当然有限なわけだが、マグネシウムは海水に含まれておりその総量は1800兆トンになる。

『1年間に世界でエネルギーとして使われている化石燃料は、石油換算で約1000億トンですから、1800兆トンのマグネシウムというのは約10万年分のエネルギーに相当する莫大な量です。マグネシウムは無尽蔵の資源といってよいでしょう。(p.44)』ほへー凄いなー、と素直に感動してしまう。さらに凄いのは、使い終わったマグネシウムは酸化マグネシウムになり、これをレーザーで製錬すれば金属マグネシウムに戻り、また燃料として使用できるようになること。

二酸化炭素も排出しないので、かなりのエコ燃料なのだ。著者はこのマグネシムを循環させエネルギーとして使う社会のことを「マグネシム循環社会」であるとして、その推進に力を捧げている。そんな凄い物が今まで何故表舞台に上がらなかったのかと言えば、「レーザー」が鍵になっている。端的に言えば、「太陽光励起レーザー」が出来たからこそ、「マグネシウムを製錬する」コストが大幅に下がり「マグネシウム循環社会」が実現可能な目途がたったのだ。

レーザーの例えとして秀逸なのが、ほっぺたを叩くこと。手のひらでゆっくりとほっぺたを押しても痛くも何ともないが、手のひらでひっぱたくと痛い(時間的集中)。先の尖ったもので押すともっと痛い。ひっぱたくように一瞬で尖ったものを押しつけられると超痛い(空間的集中)。エネルギーが集中しているからである。つまりこの「集中」こそがレーザーの特徴なのだ。エネルギーの量は同じでも空間的、時間的に集中させることで力が変わってくる。

今までマグネシウムの製錬にはかなり厄介で面倒でコストのかかる手順を踏まなければいけなかったのが、この新しい「太陽光励起レーザー」を使う事によって分解のコストが大幅に下がる。燃料として優れている上に海にほぼ無限に存在するマグネシウムを使えば、エネルギー革命といってもいいぐらいの変化が起こるでしょう。

著者の言う事をある程度信頼できる証拠として、すでに具体的にビジネスの話として動き出していること。実際にエネルギーを生成する工場のコストを現状の石油工場などと比較し、費用を試算しています。また研究の過程でアイデアが生まれた太陽熱を利用した淡水化装置(海水を飲み水にする。効率が他の淡水化装置と比べて抜群にいい)をすでに販売しているとか。

いずれ新しいエネルギー源を探さなければいけないわけで、未来に楽観的な予測が出来るようになる情報が増えて良かった。エネルギー問題が解決されれば、豊かさが生まれる。貧困国にも余裕が出てくるかもしれない。明らかに世界は良い方向に向かって行くということだ。たとえこのマグネシウムがうまくいかなくても、目指すべき方向は間違っていない。

マグネシウム文明論 (PHP新書)

マグネシウム文明論 (PHP新書)