基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

失われた「医療先進国」

救急患者が病院をたらいまわしにされるというニュースはもう日常の一風景になってしまったかのような現代日本ですがその原因はどこにあるのか、どうやったら解消されるのかをわかりやすくといた一冊で非常にしっくりきました。よくよく考えたら僕も「たらいまわしにされるなんて最悪だなあ」とぼんやりと考えたことはあっても、それ以上考えを先に進めることもせず「まさか自分は救急車で運ばれることになるはずない」とどこかで考えていたんだなあと思ってちょっと肝が冷えました。いつ何時僕も救急車で運ばれるかわからんのです。

救急患者たらい回し状態の現状を大勢は「医師不足」とし、国も2008年度から医学部の店員を過去最高にまで引き上げています。しかし現状の医療制度を見るに、「本当に医師が不足していることだけが問題なのだろうか?」と分析は進んでいきます。ざっと要約してしまうと、医師が偏っているのが問題なのだなあとまとめることができるんじゃないかと思います。

医師自体の数は年々増えているにも関わらず、医師がこれだけ足りないように見えてしまうのは必要なところ(過酷なところ)に人が集まらず、別のもっと楽なところに医師が集中しているのです。たとえば小児科などは常に忙しい、自分の時間がほとんど取れない環境に置かれ、しかも子供相手の治療は言葉で説明してもらえない分大変で責任も大きい。

また2004年に導入された新しい臨床研修制度により、国家試験に合格した医師はそのまま自分の所属したい診療科に行っていたのですが、幅広い技術を身につけるという名目で2年間、様々な診療科をめぐることになったそうです。そしてその結果、小児科のような過酷な職場を目にして、行こうという人がいなくなってしまったとか。

これ自体は別によいと思うんですよね。要は今まで半ばだますようにして、小児科に入ったら逃げられなかったわけですから(いやな言い方だけど)ただやはり過酷な仕事環境と、それ程でもない、たとえば眼科なんかを(よく知らないけど)見せられたら、眼科を選びたくなる気持ちはしょうがないでしょう。

経済的に考えると過酷な仕事は給料もまた高くなり、人が配分されるのでしょうが医療の値段というのは決められていますからね。不効率が起こるのは仕方が無いとも言えます。また免許をとったばかりの医師は研修医としてほとんどタダで働き、夜間当直のアルバイトなどで稼いでいたそうなのですが、これが新制度により禁止に。その代わり30万円程度の月収がもらえるようになるのですが、病院に勤務する医師の当直の回数が増え、キツイ環境が生まれる原因になっているようです。

単純に医師を増やせばいいという問題ではないことがわかるな〜〜とここまでが大体二章までの内容で、三章は開業医の問題、第四章は病院の医療ミスなどを追求することは難しいという問題。第五章はヨーロッパ、イギリスドイツを例にとって医療制度改革を見ていきます。六章では奈良で行われている日本医療改革の話。

医療改革がどういうものかをざっくり説明すると、「実際にどれぐらいの患者がいて、どれぐらいの医師が、どの場所にどれぐらい必要なのか」を可視化するということをやっているのです。「なぜ今までやらなかった」というぐらい当たり前の話ですが、まあ税金で運用されていると無駄や非効率には目が当たらなくなるものです。

非効率や無駄があるんならそれを解決すればいーやんっていう話で、本書の七章もこれに対する提案がぽんぽん出て来ていて、あーよかったよかっためでたしめでたしなんですけど、本当の問題はここから先ですよね。4人や5人の組織ならまだしも、国の税金を大量投入しなければならない大事業、そうそう簡単に改善されるわけもなく。

結局一人一人が意識を持って長期的に取り組んでいかなければならない問題なのでしょう。世の中にはこういう、「身近に潜む闇」みたいなのがめちゃくちゃおおいなあ、でも知らないで過ごすのもだめだなあ、とかそんな超どうでもいいことを考えて読み終えました(ひでえ)