基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

森博嗣の道具箱

森博嗣先生のエッセイの中でも特に「ツール」に特化した一冊。一項目は短く、簡潔で、しかし発想の切れ味は凄まじい。読んでいて何度も鳥肌が立つような感覚を覚えた。なんだろう、森博嗣先生において、特筆すべきはその発想力で、常に「新しい価値を」生み出そう、という姿勢がどの作品にも、どのエッセイにも表れている。新しい価値とはつまり、「同じものをみても普通の人は思いつかない視点」で物事を見て、見たものを抽象化し、普遍的な発想に繋げていくことだ。

抽象化の最たるものは数字である。数字には形が存在しない。しかしほとんど全ての事象は、数字という抽象に置きかえることが出来る。世の中には今、自己啓発書などのような「具体的にこれを実践しろ。そうすれば成功する」という方法論が溢れているけれど、真に多くの人の役に立つのは実は極端に抽象化された物事なのだ。

抽象化と言えば、たとえばこんな部分は凄いと思った。

天秤を見て感じるのは、バランスがとれている平衡状態が、いかに不安定なもの、奇跡的な条件下、ということである。身の回りを見回してみると、いろいろなバランスが求められている。仕事でも、家庭でも。大きく見れば、社会、そして国家どうしも、それが安定だと考えられている。しかし、バランスが保たれている状態なんて、本質的に不安定なものだ、という認識が必要ではないだろうか。常に気をつけていないと、維持ができない。(p.46)

他にも多くの引用したい文章で溢れているけれども、自分だけの物にする為にとっておこう(笑)

森博嗣の道具箱―The Spirits of Tools (中公文庫)

森博嗣の道具箱―The Spirits of Tools (中公文庫)