人間による環境破壊が深刻なのはみなさんご存じのとおりだ。
木を切って森を消し去ったり、土を持っていって地形を変えてみたり、魚をとりまくってみたり、汚水を海に流してみたり。環境は凄い勢いで変貌している。そもそも人間が環境を変化させることによって生きてきた種族だということもあるだろうが、それにしたってここ最近の人間さんの挙動はちょっとどーなのと言いたくなるような横暴無人な行為なのではないか。
さて、その話を受けて、現在のような環境問題が顕在化してしまっているのは、この世が「数学・物理的発想」によって作られているせいなのではないか、というのが本書のメインテーマと言える。さらに言えば、従来の数学・物理的発想ばかりでなく、「生物学的発想」をとりいれることで現在起こっている問題を少なくともいくつかは解決できるのではないかと提言している。
ここでいう「数学・物理的発想」というのは具体的に書くと「量が多い事が豊かである」とする発想のことだ。全ての物は同じ質であり、違いは多いか少ないか、価値の判断基準はそこにしかない。数学でたとえると、100頭の牛がいて、それぞれに重かったり、元気だったり、小さかったりと基準がばらばらであるにも関わらず、それらはすべて「100頭の牛」というくくりで抽象化、単純化されてしまう。単なる量に還元されてしまう。
量価値を測る物差しが量しかないと、より幸せになる為には「量の多い方が幸せだ」という考え方になってくる。幸せになろうと考えたら、どんどん量を増やす。ここにきての「生物学的発想」とは、先の例でいえば「一頭一頭の牛をもっと細かくみていこうぜ」ってことです。量と対比して言えば、「量よりも質を重視しよう」ということになる。
「量が多い=豊か=幸せ」という現在の状況から「質が良い=豊か=幸せ」という価値観への発想の転換が、ひいては量を重視するあまり止まらない環境破壊を止め、より多くの量(時間)を仕事にあてようと重視するあまりとてもビジーになっている我々現代人のビジネスマンも質(どれだけ質のいい時間を過ごすか)にシフトすることで、より充実した生を得られるのではないだろうか。
さて、まあそれはいいけど、じゃあそれ具体的にどうすんのよ、っていうところの話まで期待すると、少し期待はずれだろう。具体的な提案といったものはほとんど見られない。しかし本書の魅力はあえて現在の数学・物理主義に「否」と明確に言っていることと、わき道にそれているともいえるような生物学的なお話にある。
特に面白かったのは共生生物たちの話で、いかにうまく生物たちがお互いを利用して快適に過ごしているのかという話を、主にサンゴ礁を例にあげて説明している。またナマコの話も面白くて、こいつらはひょっとして人間より幸せなんじゃないのかと思わせるような存在だ。
「文明論かあ……」とあまり身構えずに、生物おもしろエッセイ的なノリで読んでも全然面白いので、僕としてはそちらの読み方でお勧めしたい。
- 作者: 本川達雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06
- メディア: 単行本
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