基本読書

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創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値

同著者の『コミュニティを問いなおす』という本が面白かったのでこの本も手に取ってみました。「創造的福祉社会」とか、なんか挑戦的なタイトルで面白そうですしね。副題にもあるように、「経済成長がなかったとしても存続している社会の在り方」はいったいなんなんだろう、っていうことに「創造的福祉社会」という答えを提示しているんですね。

一、二章はその制度的な話で、三章はわけわからん原始時代からの人間のサイクルを論じて今の福祉社会に通じるような話をしていたような気がします、本題とあんま関係してないし、かったるくて半分ぐらいしか読みませんでしたが、なんか楽しそうに熱を込めて書いているのは伝わってきてわけわからん「凄み」を感じました(そんなものがいるのかどうかは別として悪くないと思う)。

さて、一冊の本として非常に面白かったと思います。創造的福祉社会という答えも僕にはかなり良く見える。

氏によれば今までの時代では生産の総量がニーズに追い付かず、貧困が生じていたといいます。しかし現在の場合、生産過剰によって失業が生じ、そこに貧困や格差が生じている。失業が恐ろしくて必要以上に働いた結果生産の過剰を招き、さらなる失業を生みだしてしまう。「欠乏による貧困」から「過剰による貧困」へのシフトが起こっているといいます。

ここでは「過剰」という富の「総量」の問題と、その「分配」という問題がからまっているのであり、そうした「過剰の抑制」と富の「再分配」という二者を私たちは同時に行っていく必要がある。

ここからが面白いところで、総量と分配を解決する社会的セーフティネットの話にうつります。たとえば病気になって働けなくなったりした時の為にある社会保険がこれにあたるわけですね。ただこれは仕事にありつけている状態でしか機能しない保険なので、仕事にすらつけない人たちの為に生活保護が存在します。

この社会的セーフティネットがどのような順番で発動してきたかというと、第一ステップとして市場経済から落伍した人間を助ける為の事後的政策として生活保護が、第二ステップとして雇用労働者が事前に金を払って貯めておくという事前的処置としての社会保険が、そして二十世紀に入って社会保険の前提をなす「雇用」そのものが危なくなった時に、第三ステップとしてケインズ政策市場経済への積極的な介入を通した需要喚起と雇用そのものの創出──が始まったのです。

つまりどんどん事前的な、根源的な悪を断つ的な思想に向かって社会的セーフティネットと言うのは作られてきたそうなんですよ。読んだ時はメウロでしたね(目からうろこ)。ここまで読んだらわかると思いますが、本書で提案されている具体的な案というのは「もっとさかのぼってやるぜ!!」という考え方ですね。そこで提案されているのが以下の三つ

①人生前半の社会保障
②ストックに関する社会保障
③「コミュニティ」そのものにさかのぼった対応と政策統合

詳しくは本書で。さらには「生産性」という概念の根本的な見直し、の部分なんかもおもしろかったです。完全に主観ですが、このあたりの話はこれから先重要なテーマになると思います。簡単に言ってしまえば今のような「人あまり」時代では「効率性」よりもむしろ「環境効率性(人を積極的に活用し、できるだけ少ない環境負荷で生産を行って行く)」にシフトしていくべきではないかという試案がされています。

個人的に色々どうかなと思うところありますが「福祉社会」に寄った意見としては非常に納得できるものでした。僕はどうもリバタリアン的な意見にも福祉社会的な意見にもどちらにもうんうんそうだよねと頷いてしまって自分の意見みたいなものがまったく形成されなくて困っているんですが今後も色々読んでいきたいですね。

創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書)

創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書)