基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

NOVA4

SF短編アンソロジー第四段。全部オリジナルでSF短編をあつめたる、しかも作家陣はひとくせもふたくせもある豪華な方々という野心的なスタートをきって、第四段まで維持し続けているのはさすが。アンソロジーというのは僕の好みからはかなり外れているけれど、外れているなりに楽しく読めた。作家の好き嫌い、っていうのはどうしてもあるからな〜。

一作ずつ感想を述べていく気はさらさらないので印象的に残ったものをいくつかあげていくと、北野勇作の『社員食堂の恐怖』は社員食堂で料理を吐き出す機械がチケットを入れるとランダムで突如として社員を食べ始めるという奇想がおもしろい。小ネタがいちいち面白かった。

史跡探検が趣味というが、それが生かされている森田季節の書く短編『赤い森』もなかなかおもしろかった。何を書いてもネタバレになるので別に何も書かないが、すっかりSFの人という感じで僕の中では定着してしまった。ずば抜けて面白いわけではないが……なんかするする読めてちょっとよいところがある。

林譲治が書く『警視庁吸血犯罪捜査班』は練りこまれた「吸血鬼がいる世界」の設定が圧巻で、素晴らしい! と大絶賛したいのだが中で起きる事件といえばわけわからん超市民的な犯罪で練りこまれた設定と実際扱っている事件のアンバランスさが個人的にマイナスだった。長編が読みたいのだ。

『瑠璃と紅玉の女王』良いと思う。すごくいい。
『宇宙以前』星に行かなかった星の王子様……。

山田正紀の『バットランド』は傑作。
たしかNOVA3で収録されるはずだったが、原稿が書き終わらずしかも渾身の勝負作だからという理由でこのNOVA4に見送られた。個人的にはこの作品の為だけに本書を買っても良いと思えるぐらい好きな作品。

まずSFギミック、アイデアがとても面白い。量子テレポーテーションを使った宇宙の危機と目の前の危機をリンクさせる手法は短編(中編)ならではの力技だし、進化した生物として描写されるコウモリの話も非常にそそる(進化した人間以外の生物というネタが僕は好きだ)。

それ以上に主人公のキャラクタが魅力的だ。認知症をわずらったじいさんでしょっちゅう小便をもらしてしまうようなじいさんだが、今は投薬によって一時的に認知症が回復している。普段は小便をもらしているが認知症から回復している間はとてつもなく頭がキレる、全盛期はカゴ抜けの志村としてどんな窮地からでも脱出する腕をもった男だった。

僕はじじいが好きなのだ。ばばあよりはじじいが好きだ。じじいなのにやけに子供っぽくて生に執着したり妙にえろかったり、最後に納得して死んだり、というのがいいのかなと思う。僕が好きなじじばば作品はみんなそんな感じだ。自分がじじいになった時の理想を見たいのかもしれない。

時代遅れのじじい達、老いぼれた人間はやはり後進に道を譲るべきなのだ。どんなに先進的な考えを持っていて、力を持っていたとしてもいずれそれは無に帰る。その無情さが好きで、しかしそれを受け入れる本書のじじいはとてもかっこいい。こんなにかっこいい小便もらしは初めて見た。