人はどのようなルートをたどればこのジョン・アーヴィングが書いた『ガープの世界』という本にたどり着くのだろう。出版されて二十年以上が経過した今、この本に辿り着く為にはいくつかの幸運な偶然が必要だろう。なぜこんな事を書くのかというと、この小説がめっぽう面白いからである。一人でも多くの人に読んでもらいとはまったく思わないが。だがこんなに面白い小説が、時代を経るごとに辿り着ける人がだんだんと減っていくのはとても悲しいと思う。
多くの面白い要素がある小説だ。とても何かが書けるような気がしない。出てくる人物はみな愛すべき人間だったことぐらいは書けそうだ。だれもがダメな部分とぶっ飛んでいる部分といくぶんかの良い部分とそして何より個性を持っている。驚くべき事に人間の一人一人は現実には自分ではそうとは意識しない「個性」を持っているものだが、それを小説の中で再現することは非常に難しい、と僕は思う。それは「これこれこういうもの」とすぐに説明できる「点」ではないからだ。
それはまさにこの小説に対する評価にふさわしいと思う。「点」ではなく「線」の小説だ。だから面白かったポイントを一つずつ挙げて説明するやり方はできない。それらはすべて繋がっており、一つだけ取り上げてもあまり意味をなさないと思う。それが最初に難しいと描いた理由である。線に注目していえば、たとえばキャラクターはよかった。それはやはり複雑な「個性」が書けているからだろう。
そしてそれ以上にすばらしいのはキャラクターが作り出す人間関係だ。母と子は当然、友人関係が何十年もして意味を持つ事があれば、ほとんど何の関係もなかった、ただ近くにいたというだけの人間が人生も終わりに近づいたときに大きな意味を持つことがわかったりもする。役割を終えたように見える人間もこの世界ではちゃんと生きていて何事かを為していることが語られる。みんなが動いているのだ。
エンターテイメントとしてもすばらしい。物語にうねりを加える方法を熟知しているし、本から顔を上げさせないぐらい熱中させる(それをフィクションだと忘れさせる)「もっともらしい嘘」のつき方がとてもうまい。それ以上に重要なことは、本書にはエネルギーがある。上下巻もの長い物語を読者を話さずに引きつけ続けておくにはやはり膨大なエネルギーが必要なのだ。本書にはそれがある。
誰かがこの本を読むきっかけになったらいいな。映画化もしているから読む人自体はいるのだろうけれどね。

- 作者: ジョンアーヴィング,筒井正明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1988/10/28
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