ちきりんさんの『自分のアタマで考えよう』で推薦されていたので読んだ。
データ、グラフを多用して説得力をつけつつ独自の見解を述べていくちきりんさんのスタイルはここからきているのかな、と思いつつ読んだ。あと『若者殺しの時代』という本もちきりんさんは紹介されていて、この本との傾向とあわせて考えると「ある時代を生きた体験談」みたいなのが好きなのかなと思った。
本書に戻る。個人的な興味があるテーマだったこともあるけれど、これがめっぽう面白い。テーマは2007年頃のリーマン・ショックやらの金融危機である。なぜ起きたか、ではなく、なぜそこに日本が巻き込まれて、対岸の火事と余裕ぶっこいてたらアメリカ以上の損害をこうむってしまったのか、である。
バブル景気が日本にはあり、これがはじけたときはみんな「図に乗ったせいだ」と思ったという。しかし2007年の経済危機についていえば、日本人には「特別なことは何もしていないのに突如ふりかかった災難」と感じられる(僕にはあまり実感が)。しかし世界全体でみれば金融危機の前に、かつてない経済の好調が続いていた。
テーマをもう少し掘り下げると「なぜ経済の好調は日本(とドイツ)には訪れなかったのか」である。しかも破綻はアメリカで起きたのに、被害自体は日本の方がずっと大きかった。これは不思議な話だ。アメリカのGDPは90年から2011年の間に2.5倍増加しているが日本はほぼ1.2とかそんなもんである。悲しい。
要因を簡単に要約してしまうと、90年代以降の成長した国で起こった産業の変化に日本が乗り遅れたところにある。最初に中国の工業化という大イベントがあり、これにより製造業の労働力が溢れかえる。製造業を中心としている日本は当然打撃を受ける。
それはアメリカなども同じだが、貿易摩擦によりアメリカは製造を追い出されつつあり金を稼ぐ主力を主に金融とITにしぼっていった。製造業に固執しても、中国がいる時代では賃金が中国並みに下がってしまう。そこで中国で生産される安い製品を利用し、付加価値の高い産業にリソースを集約した。
それが金融とITだった。金融は新たに効率的な危機分散技術をいくつも作ってチャレンジを行いやすい世界を作り、そのおかげで産まれたばかりのIT分野がぽこぽこと元気よく成長してきた。90、00年代を好調で迎えていたアメリカ、イギリスなどの国に共通しているのは「製造をやめ、金融にシフトしていた」からである。
簡単に言えば、中国と同じ事をやっていては死ぬ世界がきたので、中国では出来ないことをやっている国が成長しているのである。
日本は製造と金融従事者の比率がずっと変わらなかった。その為アメリカがリーマン・ショックを引き起こした際に(2002年〜2007年の日本の好景気はアメリカのバブルが進行していたことにより、需要が異常に増え、輸出がうまくいっていたからである)物が売れなくなった日本がワリを食ったのである。
この状況が以前の状態に戻ることはない。一時期好景気だったのはアメリカのバブルという異常状態が起こした自体で、むしろ好景気だったことが異常なのである。さて、今後日本がどうしていけばいいかについては「日本を世界に開き、脱工業化し金融に産業構造の重点を置く」ということになるのだろう。
このへんはよくわからない。そんなにうまくいくだろうか。特にイギリスを参考にして海外に開かれた日本に転換し移民を受け入れるなどというのはほとんど夢想に近い(日本人が移民を受け入れるはずがないまあイギリスに学ぼうと書いているだけで移民とかには何も触れてないけど)。
今後どうするかというのはいろいろと考えて見なければならないところだけれど、ほかの人たちの意見をブログなどで読んでいると、「現状維持のままでいいじゃないか。だって幸せだもん。幸せだと胸を張って生きていこうぜ」派に偏りつつある。
海外に開かれた日本にすることに大して日本の難易度が高いのは文化的な面などからもいろいろあるが、英語をしゃべれないというのが大きいと思う。まあ中学生までの英語で、充分通用するとは僕は思うんだけど。うーんじゃあ別にいいのかなあ。
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