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地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト

スタンフォード大学(だったっけ?)で行われたジョブズのスピーチの最後を締めくくる「Stay Hungry Stay Foolish」という言葉があるが、その発祥は「Whole Earth Catalog」なる雑誌である。本書はそのWhole Earth Catalogの発行人であるスチュアート・ブランドが著した地球論であって、副題にあるように今後の地球をいかに運用していくかのマニフェストでもある。

最初に問題提起として挙げられるのは、突然の気候変動に対してどのように対処をするのかである。地球は確実に温暖化が進行しており、2007年には北極の氷は半分になった。南極の氷も驚くべきスピードで溶けていて場合によっては海面は一気に五メートル近く上がる可能性もある(温暖化で海面が上昇するのは熱で水が膨張するからなのだと思っていたけど違うのかなあ? 本当に南極の氷が溶けたぐらいで上昇するかあ?)

本書の危機感の基準はIPCCの予測で、2040年にはヨーロッパ、アメリカ、中国でも食料生産ができないほど気温が上昇してしまうという。5500万年前にも同様な状況が起こっていて、北極の水温が23度になってワニが泳いでいたという。ただよくわからないのは、本書では温暖化の原因は主に二酸化炭素に求めているけれど、5500万年前にも同様の状況が起こっていたとするんならまったく二酸化炭素関係ないじゃんとも思える。

僕は正直いって二酸化炭素温暖化論というのはよくわかっていなくて、賛成派のいうことも反対派のいうこともどちらもあるのだろうと考えている。ようするに二酸化炭素は確かに温暖化を促進しているのだろうし、同時に地球自体の環境変化の要因もあるのだろうと。

温暖化のおかげで氷期(現在の地球は一万年の間氷期にあるが、この一万年周期が時期的にはすでに終わりに入っている)がこずにすんでいるのかもしれないといったことも本書では語られていて、ようするに温暖化現象がなくなった時に地球は氷期に突入してしまうのではないかとか、まあ心配な事は色いろある。

温暖化が進行していようがしていなかろうがただ一つ変わらないことある。それは現在地球が気候変動に襲われているということであって、地球が暑くなろうが冷たくなろうがこの気候変動に対処しなければ恐らく長期的にみて文明に未来がなさそうということだ。その意味で本書は今後の地球環境を考えていくうえで一本すじの通った骨太の思想を教えてくれる。

「地球をどのようにして運用するのか」について著者の論点は1.人間は都市に集約させて効率的なエネルギー配分などを心がける。2.二酸化炭素を(他と比較した場合に)出さず効率的なエネルギー源である原子力をがすがす活用する。3.遺伝子組換えを積極的に行うことで効率的な食料生産を行う。

一言でまとめてしまえば「現在点で使える技術を使って最大限効率を追い求めたらこうなる」という感じのマニフェストでなるほど確かに素晴らしい。ただもちろん全然納得がいかない部分もある。特に原子力の部分は福島以前に書かれたものなので「原子力は安全でクリーンなエネルギー」は悲しいことに信じられない。

何しろ「原発は絶対に事故を起こさないから大丈夫だ」という論理で説得するのだけど人間が運用する物である以上失敗しないはずがない。そして原発廃炉に時間がかかることや風評被害の問題などもあって実質的な被害がないとしても「絶対に失敗が許されないシステム」であるように見える。

遺伝子工学も反対されている理由の多くは「自然に反している」などといったなんだかよくわからないロマンに洗脳された物である。遺伝子組み換え作物を使うことによるデメリットは現在のところ現象としては見えてこない。

一方で組み換え作物を使うことによって、使わない場合に比べて多くの人に食物が届けられるのは事実だ。だからもっと活用されるべきだと思う。怖いことは「もっとも効率的な物「だけ」になってしまうこと」だけどこれはどうなんだろうね。

都市に人口を集約するのは僕はずいぶん良いことだと思うし将来的に絶対にそうなっていくだろうと思っている。文明とは殻を厚くすることでありどんどんこもっていって、最終的には人類はバーチャルリアリティに引きこもる方向にいくんだ。

こんな感じで一つ一つの論点には疑問があったりえーと思うところもある。ただ「大規模な環境変動に対応しなければならない」ことは確かであって、その方向性として最重要なのが「エネルギー」であり「遺伝子工学」であり「都市」であることは間違いがない。細かい所で異論があろうとも方向性として納得できるので読んでいてとても楽しかった。オススメ。

地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト

地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト