基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎

ハードカバーで出た時に結構な評価を受けていたこの『銃・病原菌・鉄』だけど、文庫になったので読んでみた。「なぜ?」という問いは最初は何気ない問いで、すぐに答えられそうなものあっても深く問い続けていくと誰も知らない領域にまで踏み込んでいくものだ。本書も最初の「なぜ?」は至極単純なものである。

著者のジャレド・ダイアモンドが熱帯のニューギニアの海岸を歩いていた時に、その地方では有名な一人の好奇心旺盛な政治家と出会った。その政治家の名前はヤリといい彼はいくつも質問をしたそうだが、その中にこんなものがあった。

『あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?』これは非常に単純な質問だが答えるのが難しい。本書ではこの質問に答えるために文庫本で800ページもの紙面をつくしている。

この質問は次のように言い換えることが出来る。現代世界において富や権力はなぜ今のような形で分配されてしまったのか? 南北アメリカ大陸の先住民、アフリカ大陸、オーストラリア大陸アボリジニが、ユーラシア大陸に乗っている国々を征服し制圧し今のアメリカのような立場についている状況はありえなかったのだろうか?

ありえなかった、というのが本書の答えだろう。たとえば紀元前一万一千年前から西暦千五百年のあいだに、ユーラシア大陸南北アメリカ大陸の大部分、アフリカ大陸サハラ以南の地域ではすでに農業が起こり家畜を飼育し政治が生まれ文字が生まれた。しかしその一方でオーストラリア大陸アボリジニやアメリカの先住民はまだ狩猟採集民のままでいたのだ。

当然次に出てくる問いはこのようなものになる。『なぜ、人類社会の歴史は、それぞれの大陸によってかくも異なる経路をたどって発展したのだろうか?』。最初に思いつくのは人種により能力が違うという推測だろう。文明が発達した箇所の民族は、黒人の足が速いイメージがあるのと動揺、文明を発展させるための能力が高かったが故に成功したのだと。

しかし、本書ではこれに対して次のように答える。『歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない』。この「環境の差異によって」というところが本書のメインテーマである。

たとえば──すべての人類が狩猟採集生活をしていた頃のことを考えてみよう。ある大陸では撒いておくだけで勝手に食べることが出来る、短サイクルで成長する野生種が大量に存在していたとする。また現代でも家畜化されている動物は牛や豚、鶏など非常に数少なくしか存在しないが、それらがすべて存在している大陸があるとしよう。

反対にそれらがまったくない大陸があるとする。大地は乾燥し、撒いても勝手に育たない、技術が必要な野生種しかおらず、家畜はすでに絶滅してしまっている。結果的に一方では農業が生まれ、狩猟採集生活から定住生活に移ることができ、かたや狩猟採集生活を続ける。これは実際の話で、オーストラリアのアボリジニはまさに後者であり、ユーラシア大陸は恵まれた前者であった。

農業が成立した地域では、毎日食べ物を必死こいて探さなくてもいいし移動しなくても言い分ゆとりが生まれ人口が緻密化した。これにより単純な人数差で軍事面で有利になり、その後専門職が生まれ文明が発達し人口の発展に伴い政治構造も生まれてくる。

さらに伝搬の速度も重要である。ユーラシア大陸は東西に伸びた大陸なので、作物化や家畜化をの方法を気候によって変化させる必要がなく技術の伝播が容易に進ませることができた。これがアフリカ大陸では南北方向に広がっている為気候が違うし、ニューギニアのように中央に山岳地帯がある為に文化が広まりづらかったりといった障害がある。

ここで挙げたような例は環境の差異の一部分だが、本書ではもっと詳しく掘り下げていく。一万三千年にわたる人類史を1テーマに沿って構築しなおしていく試みに僕はかなり興奮するのだけどどうだろうか。あとやっぱり、今の現代世界が「どう作られてきたのか」ということを知ることで、「これから先、歴史がどうなっていくのか」がおぼろげながらに見えてくるのがたいへんおもしろいとおもう。

次に生まれてくる1000人の子供のうち480人以上520人以下の間で男の子が生まれてくるっていう予測はできるけど、次の瞬間に生まれてくる子供が男の子か女の子かというのは予測できない。それと同じようにこれまでの歴史を知るっていうのは、「次の瞬間どうなるのか」ってことはわからないけど、「1000年後にどうなっていくのか」っていう大きな法則が見えてくるってことなんだな。

リンゴが木から落ちるっていう身近で小さな法則(まあ理解しようとすると滅茶苦茶難しいけど)もいいけれど何千年といったスケールでみていく大きな法則を知るのもまたおもしろいのだ。