基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

インターネット検閲は実際どの程度行われているのか?

先日読んでここにも感想を書いた『政府は必ず嘘をつく アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』ではこんな記述がありました。僕の書いた記事からざっくり引用→政府は必ず嘘をつく アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること - 基本読書

特に驚いたのは、3・11後ミクシィ東電計画停電についての疑問を書いた日記をアップしようとしたところ、何度やっても反映されなかったという話をあちこちで聞いたなどと書かれた時だ。一体この人は何を言っているんだ? 仮にそうだとして、なんで調査しないでそのまま書いてしまう??

9・11の後、グーグルでテロに関する検索をかけた際、これと同じことが頻繁に起きていたことを考えると、想定内の動きだろう。(p150)』僕は9・11と3・11を単純に結びつけるのはめちゃくちゃ危険な思想だと思う。なぜならそれは、当たり前のことだが、まったく別々の事象だからだ。そして仮に結びつけるとしても、安易にやっていいことではないだろう。

『実際、私もウォール街デモを現地で取材しながら、ツイッターに写真と記事を掲載していく際に、途中で勝手に削除されたり、タグを追加しようとしても反映されないことが頻繁にあった。(p150)』

僕は「ミクシィに日記をアップしようとしたところ反映されない」とか「ウォール街デモを取材しながら投稿していく際に勝手に削除されたりした」というようなことが実際に起こるのかどうか? というところは全然わかりませんでした。ただこの文章を書いた方も恐らくわかっていないだろうに、無根拠に「検閲がかかっている」と考えてしかもそれを人に言いふらすのはどうなんだろうと疑問を書いているだけです。

で、そんなことはすっかり忘れて次に『インターネットのカタチ』という本を読んでいました。そしたら『インターネットと国境』という章でWebにおけるインターネットの国境を扱っていて興味深かったのでちょうどいいし個人的に各国におけるインターネット検閲、ブロッキング事例をまとめておきます。

まずすごく常識的なところから始めると、インターネットは壊れます。これは『インターネットのカタチ』で扱われるメインテーマなのですが、インターネットは頻繁に壊れる(接続できなくなる)ものの、粘り強い(割とすぐに復旧できる)ものです。なので単純に、接続できない=検閲されている! とするのは無理でしょう。

落ちる事例としてはナウシカがテレビで放映しているときにみんながバルス! したせいで2ちゃんねるが落ちたりします。つまりアクセスが集中したら落ちる。ウォール街デモの削除なんかはアクセスも集中しやすそうですしちょっと怪しいですね。

まあいいや。国がインターネットを遮断したり検閲したり事例。大規模なものでは2011年1月に、エジプトで起こりました。発端は2010年末にチェニジアで発生したデモ。なかなか治まらず最終的に大統領が国外逃亡してしまい、23年続いた政権は崩壊してしまいました。このチェニジア政権崩壊をうけて、エジプトでもデモが続々と発生したようで、エジプトはインターネットを止めてしまいました。

『インターネットのカタチ』では「どのようにして遮断したのか?」まで解説していて面白いのですが、それはおいといて。このエジプトでインターネット遮断は続いてリビアでのインターネット遮断につながりました。

検閲がどうだとか以前の問題で、インターネットを強制的に遮断されてしまうことがあるなんて恐ろしいですね。連絡手段を奪われて実質的に行動を起こすことが難しくなります。まあおかしいことにはすぐに気がつくのでそういう意味ではわかりやすい。

一方でわかりにくいものがネット検閲でしょう。見られているのか見られていないのかわからないのは結構怖いです。『インターネットのカタチ』では世界のネット検閲を色で評価しているサイトが紹介されていて面白かったです。リンク→File:Internet blackholes.svg - Wikimedia Commons

Twitterで教えてもらったのですけどWebの規制事例を集めたサイトもあるようです→HerdictWeb : Home

ここにある図をみると日本は黄色で「多少検閲あり」に指定されていますね。黒色は「大変厳しい検閲を実施(インターネット・ブラックホール)」とされていますけど中国が真っ黒! 当然か!

個々の事例だと英国では児童ポルノサイトをブロックしていたり、ドイツやフランスではホロコーストを否定したりナチスを賞賛するWebページがGoogleの検索から除かれているという調査結果もあるそうです。

また他の事例では「国境なき記者団」による「Enemies of the Internet」という報告書があります。この報告書では文字通りインターネットの敵となる検閲が厳しい国を列挙しています。以下の12ヶ国がネット検閲が厳しい国らしいです。

ビルマ、中国、キューバ、エジプト、イラン、北朝鮮サウジアラビア、シリア、チュニジアトルクメニスタンウズベキスタンベトナム

そうそうたるメンバー! 北朝鮮ビルマなんかはそもそも自由にインターネットにつなぐことさえできないそうです。他にもインターネットを監視下においている国としてオーストラリア、韓国が挙げられています。韓国は検閲というよりかは自分の名前を登録しなければいけないことによる匿名性が失われた状態が問題になっているみたいですね。

実際どのような検閲が行われているのかについては中国が検閲オンパレードなのでわかりやすい。主に4つの方法によって検閲を行なっているそうです。

1.IPアドレスブロッキング:特定のIPアドレスをブロッキングする
2.URLフィルタリング:Webで特定のURLが見られなくなる。
3.パケット単位での監視:パケット内に特定の禁止用語が入っていると自動的に切断される。
4.DNSブロッキングと改変:特定のFQDNに対するDNSを利用した名前解決が失敗する、もしくは応答が改変されて偽のサイトにリダイレクトされる。

※文章は『インターネットのカタチ』p144からちょっとずつ引用ちょっと改変。

他にも中国ではSkypeも検閲が行われているのだ。SkypeP2P技術を使っていて、やり取りは暗号化されているので通常は検閲は行えない。だけど中国は国内のSkypeを中国側で用意した偽Skypeにしてしまうことで検閲を実現させている。

そんなんどうやるねんと思ったけれど答えは単純で、正規のSkypeをダウンロードしようとすると偽Skypeをダウンロードするように誘導されてしまうそうだ。で、これって技術的にはSkype社からの情報提供がないと出来ないことで、Skype社は中国の検閲に力を貸しているって言うだから怖い。

本書で紹介されているのはほとんどこれで全部。実際はもっといろいろあるはずだけど、こうしていろいろみていくと検閲がどういう風に行われるのか、どこで行われているのか、っていうのが朧気ながらに見えてくる。

インターネットの力が増してくるにつれて、検閲やブロッキングといった実力行使も増えてくるだろう。2011年4月からはついに日本でも児童ポルノに対して任意のブロッキングが開始された。ひい。

検閲に関しては、本気で調べようと思ったらまだまだいくらでも調べられるだろう。二時間程度で読み終えられる本一冊読んだだけで(しかも本の一章が割り当てられているだけだ)ある程度の知識は得られるのだから、ジャーナリストとして本を書く方にも、もう少し調べてもらえないもんかなあと思ったりした。いや、調べているのかもしれないけどね。

インターネットのカタチ―もろさが織り成す粘り強い世界―

インターネットのカタチ―もろさが織り成す粘り強い世界―