基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

いやあ驚いた。面白い面白い。止まらずに最後まで読んでしまった。誕生日プレゼントにもらった本作ですけど充分楽しませてもらいました。ありがとうございます。

あらすじ

月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れた。そんな折り、大企業グループの前会長ヘンリックから依頼を受ける。およそ40年前、彼の一族が住む孤島で兄の孫娘ハリエットが失踪した事件を調査してほしいというのだ。解決すれば、大物実業家を破滅させる証拠を渡すという。ミカエルは受諾し、困難な調査を開始する。

面白い点がいくつもあって、それもかなり作りこまれているのでこれだ! と一押しする部分もない。なのでいくつかあげていって感想替わりにしておきます。

最初にポイントを上げるとするならばやはりヒロインであり探偵役(本作ではとても探偵といった感じではないけど)のリスベットの魅力だろう。文庫本で彼女が初めて出現するのは61ページ目のことなのだがリスベットの特異性をとにかく語る語る。61ページから79ページまで語る語る。彼女が所属する会社ミルトンセキュリティのボス、ドラガン・アルマンスキーが彼女を見て感じたこと、彼女の特異な立ち振舞を延々と独白し続ける。

彼が語るのは規格外で、人の常識に当てはまらず、ドラゴンのタトゥーをした調査に関しての天分をもった一個の才能についてである。ギークハッカー、コミュニケーション不全で人と関わるのを好まず、一方で超天才的な調査の才能を持っている。補足された人物はヒミツというヒミツを暴かれ、彼女のお眼鏡にかなわないと身を滅ぼすほどの災難に見舞われることもある。

リスベットのキャラクタはとてもライトノベル的だと思ったけれど、そんな一般化出来るほどライトノベルのキャラクターは定義し得るものだろうか? 少し考えてみて、男女の役割が逆転する傾向はあるかなと思う。対人関係に難があるが特定の分野では超人的な能力を発揮するアルツハイマー的な特徴は男性に多いイメージがあるし。

分析というものでもないけど、ライトノベルが受けている理由のひとつにはどうも男性の妄想的欲求を満足させる面と同時に、ある程度は現代に即したフィクションであるということもいえるのかもしれない。つまり男性は今までの重い責務から逃れ、女性化されたがっており、女性はその結果男性化せざるを得なくなっている。

まあ、別にそんなことはどうでもいい。とにかくリスベットのキャラクタはめっぽう根気を入れて劇的に描写されておりとても面白い。なお良いことに、リスベットのようなキャラクタが現実世界においてどのように蹂躙されていくのかも書かれていてなおよい。男性にとって都合が良いだけのキャラクタではないのだ。

著者は編集長まで務めたことがあるばりばりのジャーナリストでそのやり口が本書でも存分に発揮されている。これはキャラクタに続いて2つ目のおもしろポイントだ。

なにしろ各章には舞台となっているスウェーデンに関連して『スウェーデンでは女性の十八パーセントが男に脅迫された経験を持つ。』や『スウェーデンでは女性の四十六パーセントが男性に暴力をふるわれた経験を持つ。』といったスウェーデン社会の実態の告発のようなものまで見られる。

ジャーナリズム魂はいたるところで見出すことができ、たとえばキャラクタの構築の仕方、展開への納得のさせ方、主人公たちが創刊している『ミレニアム』を巡るジャーナリズム論など本書の核となっている。こうした優しくすべてを説明してくれるわかりやすさが本書が世界中で読まれ、売れ続けている理由だろう。なにしろスウェーデンの人口が900万人に対して360万部も売ったんだから大したものだ。

まあ正直僕はそのしつこい描写はくどかったけどね。そんなどうでもいいキャラクタについて細かく書かれても超どうでもいいよ、と思ってしまったりする。それはまあおいておこう。良し悪しはあるものだ。

一方でそのジャーナリズムがミステリィと結びつくところはめっぽう面白い。なぜ編集長とはいえ、1ジャーナリストと1人の天才調査屋がコンビを組んで殺人事件を調査することになるのか?? この事由の結びつけはうまいよね。ミステリィで難しいのっていかにして警察を出さないか(警察が出ると終わってしまう)なんだけど、本作ではそれを「とっくに時効がきている事件」を調べるっていう形で綺麗に解決している。

で、探偵役がリサーチャーであるところがまた面白いんだな。一般的に探偵っていうとひらめきとか人には見えない因果関係を見つけて犯人を導き出すものだけど、本作の主役を張る二人はともに探偵ではなく調査屋なのだ。だから彼彼女はひらめきに頼るのではなく地道に調査を重ね証拠を積み上げていく。ITも活用していてグッドだ。どうも探偵というと古臭くていけない。

めっぽう面白いしたぶん誰が読んでもだいたい楽しめると思うんだよね。つまらない小説は読みたくない、っていうときの安牌として本書をおすすめしたい。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)